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表紙全面に新聞の写真

書籍名

Kung Yung Pao, The Only Daily Newspaper for the Ethnic Chinese in Java during Japanese Occupation An Overview

著者名

TSUDA Koji

判型など

94ページ、『Kung Yung Pao (1942-1945) Reprint Edition』の別冊補遺

言語

英語

発行年月日

2020年3月

ISBN コード

9789869885904

出版社

Transmission Books & Microinfo (漢珍数位図書)

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アジア太平洋戦争中、東南アジアのほぼ全域を席巻した日本軍は各地で軍政を敷き、宣撫工作の一環としてそれぞれの地で新聞を発行した。旧オランダ領東インド (今日のインドネシア) の政治・経済の中心地であり、5千万近い人口を抱えていたジャワ島では、陸軍第16軍による軍政のもと、邦字紙1(朝日新聞社から派遣された社員により立ち上げられた『ジャワ新聞』)、現地語 (インドネシア語) 紙5 (中央紙1、地方紙4) に加え、70万人ほどが暮らしていた中華系住民 (同時代の用語法では「華僑」) を対象に日刊紙『共栄報 (Kung Yung Pao)』が刊行された。本書は、これまでも多くの研究書で名前だけは言及されてもほとんど内容が精査されることなく、また具体的にどのような経緯で発行され、誰がそこに関わっていたのかなど、多くが謎に包まれていたこの『共栄報』の全貌を解き明かしたものである。
 
戦前のジャワの華僑社会は、移住歴とそれに応じたいわゆる現地化の度合い、あるいは出身地や政治志向の違いなどにより多様性を極めており、それに応じて華僑系の新聞も乱立状態にあった。1942年3月にジャワ島を占領した日本軍は、これらのうち「抗日的」と目された新聞施設を即座に接収 (同時にその首脳部は逮捕され収容所に送られた)、「親日的」な新聞を手なずけるなどして統廃合を進め、華僑向け唯一のプロパガンダ紙として『共栄報』を発行させた。もっとも、当時のジャワの華僑社会が日常使用言語の面で大きく分化していたことに対応して、同じ『共栄報』の名のもとで、華語 (中国語) とマレー語 (ムラユ語、後のインドネシア語) の2つの版が同一社屋内でそれぞれ別々に編集・発行され、終戦時までその体制が維持された。同時期に日本軍は、従来様々な華僑系の団体・組織が林立していたのを解散させ、代わりに州ごとに「華僑総会」(とその支部) を設立させることを通して、ジャワ全土の華僑社会を一元的に管理・統制しようとした。『共栄報』もまた、百家争鳴状態にあったジャワの華僑社会に対し、一元的に情報を提供するツールとしての役割を果たしたのである。
 
本書では、戦前のジャワの華僑社会の言語状況や華僑系新聞の系譜から説き起こし、『共栄報』の華語版とマレー語版がそれぞれ発行されるに至るまでの経緯、そして検閲体制を含めた同紙の編集体制の詳細を、日本語、インドネシア語、中国語、それにオランダ語による資料を駆使しつつ解明している。また、この『共栄報』の2つの版の紙面内容を概観的に紹介することを通して、(たとえプロパガンダ紙とはいえ) 同紙が戦時下の華僑社会の動向を垣間見るために極めて貴重な資料であることを論じている。
 
なお、この『共栄報』であるが、インドネシア国立図書館に所蔵されていた原本を高精細撮影したものが、2019年に『復刻 共栄報 1942~1945』(全32巻+別冊) として復刻刊行されている。その別冊には、和文による解題 (およびその中国語訳) が収められているが、ここに紹介する本書は、その和文解題に重要ないくつかの新たな発見を盛り込みつつ、より広い読者に向け英語で書き改めたものである。本書末尾には、復刻版に収録されている『共栄報』の紙面の目録が付されているので、研究のために是非ともあわせて活用してほしい。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 津田 浩司 / 2020)

本の目次

Introduction
1. The Ethnic Chinese Community and Newspapers in the Dutch East Indies before the War
2. The Japanese Military Administration in Java and Control over Newspapers: The Origins of Kung Yung Pao
3. Characteristics of the Newspaper Kung Yung Pao
Epilogue
List of the Newspapers' Pages Contained in KUNG YUNG PAO Reprint Edition (1942-1945)

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