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書籍名

20世紀の東アジア史 [全3巻]

著者名

田中 明彦、 川島 真 (編著)

判型など

1056ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年9月4日

ISBN コード

978-4-13-020309-8

出版社

東京大学出版会

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20世紀の東アジア史

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本書は、数十人の日本史、東アジア史研究者の共同研究による成果で、19世紀以来の東アジアの近代史を、東アジア地域史と各国・地域別の歴史として叙述した三巻本の書籍である。この共同研究の問題意識は、「20世紀の東アジアがいかなる歴史を辿ってきたのか」という極めてシンプルなことだが、このシンプルな問いを21世紀の初頭に改めて設定したのは以下のような理由による。
 
第一に、現在、この東アジアは世界的に見ても経済的な繁栄を成し遂げた地域であると言えるが、しかし1960年代を振り返れば、この地域はむしろ世界的に見ても最も貧しい地域の一つだった、ということがある。では、その東アジアはいかにしてダイナミックに発展していったのだろうか。
 
第二に、これは第一の経済的繁栄の前提とも言えるが、現在、この地域が相対的に平和な地域となっているが、それもまた20世紀史を振り返れば決して平和ではなく、むしろ多くの戦禍があったのである。しかし、1970年代のベトナム戦争、中越戦争、さらには1990年代初頭のカンボジア紛争終結後、海をめぐる領土問題などはあるにしても、戦争や内戦がほとんどない地域になったのだろうか。
 
第三に、そのように経済的に繁栄し、また戦争や内戦がないこの現在の東アジア地域であるが、そこには極めて多様な政治体制がある、ということである。では、それぞれの国や地域でどのようにして、なぜそのような体制が選択されていったのか。そしてそのような多様な政治体制が存在するこの地域はどのようにして繁栄と平和を達成していったのか。
 
このような大きな問いを設定するとき、単線的な発展段階論や近代化論、あるいは政治文化論、そういった議論では十分な解答を与えられないことは明らかである。そこで、この共同研究では、国際関係と国内での国家建設を重視し、後者においてはいかに「統治」体制や国民が形成されたのかということを、それぞれcritical junctureを設定しながら考察するということを行なった。
 
これらの大きな課題に対して取り組んだ結果が本書である。第1巻は国際関係であり、第2巻は各国・地域別の東北アジア部分、第3巻は東南アジア部分である。本書のような東北アジア研究者と東南アジア研究者が共同して相互に比較しながら国際関係や国家建設について考察を重ねるという経験は執筆者にとっては極めて重要であり、近世以来の歴史の重要性なども改めて確認された。それだけに本書では20世紀という時に、19世紀後半を含めた。
 
無論、これだけ大きな問いや設定された課題に対して、明確で、かつまとまった解答が本書の内部で結論として与えられているかと言われれば必ずしもそうではない。しかし、本書に採録されている諸論文を通じて、それぞれの執筆者の考察の多様な軌跡がその暫定的解答、ということになると思われる。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 川島 真 / 2022)

本の目次

■第1巻 国際関係史概論
 
第1部 近代東アジア国際関係史 19世紀から20世紀前期
 
第1章 19世紀のアジア (川島 真)
  はじめに――19世紀の東アジアへの視線
  一 18世紀の東アジア
  二 19世紀の東アジアの変容
  三 19世紀の東アジアの国際関係と不平等条約
  おわりに
 
第2章 20世紀初頭の東アジア――1900-30 (北岡伸一)
  はじめに
  一 20世紀初頭の東北アジア
  二 20世紀初頭における東南アジア
  三 日露戦争
  四 第一次世界大戦の衝撃
  五 第一次世界大戦と東南アジア
  六 ワシントン体制の成立
  七 第一次世界大戦後の東南アジア
  八 ワシントン体制の崩壊
  おわりに
 
第3章 世界恐慌から第二次世界大戦 (田中明彦・川島 真)
  はじめに
  一 世界恐慌と欧州情勢の変容
  二 東アジアにおける均衡の瓦解
  三 満洲事変から日中戦争へ
  四 日中戦争
  五 第二次世界大戦へ
 
第4章 ヨーロッパから見た東アジア
     ――20世紀の幕開けと植民地主義の黄昏 (細谷雄一)
  はじめに
  一 近代化と帝国主義
  二 近代化と西洋化
  三 日英同盟と日露戦争
  四 日露戦争とその後
  五 第一次世界大戦とナショナリズムの覚醒
  おわりに
 
 
第2部 現代東アジア国際関係史 20世紀後期から現在
 
第5章 冷戦と東アジアの「熱戦」(田中明彦)
  はじめに
  一 冷戦の開始
  二 東アジアの「熱戦」
  三 冷戦の展開
  四 第二次世界大戦後の秩序の動揺
 
第6章 冷戦後期から世紀末の国際関係 (大庭三枝・高原明生)
  一 多極化時代の東アジア
  二 1989年の地殻変動
  三 ポスト冷戦期の東アジア――現在まで伸びる影
 
第7章 東南アジアの国民国会形成と地域主義 (早瀬晋三)
  はじめに
  一 冷戦体制下のASEAN
  二 東南アジア競技大会
  三 ポスト冷戦下のASEAN
  むすびにかえて
 
 
■第2巻 各国史1 東北アジア
 
第3部 東北アジア
 
第8章 日本
  立憲国家形成と展開――政党政治と対外関係を中心に (波多野澄雄)
  はじめに
  一 帝国憲法体制の形成
  二 新憲法体制の形成と天皇制
  結びに代えて――憲法解釈をめぐって
 
第9章 中国
  中国の国家建設のプロセス (川島 真・張 力・王 文隆 / 川島 真 翻訳)
  はじめに
  一 王朝の時代 (19世紀)
  二 清末から民国期の国家建設
  三 中華民国北京政府期の国家建設
  四 中華民国国民政府による国家建設――政治と経済
  五 中華人民共和国の成立とその意義
  おわりに
 
第10章 香港
  香港の「国家建設史」――誰が香港を作ったか? (倉田 徹)
  はじめに
  一 前史――19世紀の香港
  二 戦前・戦中の香港 (~1945年)
  三 戦後の香港 (1945~84年)
  四 過渡期の香港 (1984~97年)
  五 返還後の香港 (1997年~)
  おわりに――未完の「国家建設史」
 
第11章 台湾
  ⅰ 民主国家の建設――近代台湾の概略史 (張 隆志 / 川島 真 監訳)
  はじめに――アジア諸国のパラレルヒストリーにおける台湾
  一 歴史的視点から見た台湾の国家建設
  二 台湾における独裁政治から民主主義への移行
  三 民主主義は定着したのか?
     ――台湾の「静かなる革命 (Silent Revolution)」の再考
  おわりに――グローバル化した世界における台湾の民主主義国家建設
 
  ⅱ 福祉から見た台湾の国家形成 (上村泰裕)
  一 植民地時代の福祉――社会事業の展開
  二 党国体制期の福祉――社会保険の漸進
  三 民主化後の福祉――全民化への曲折
  四 後発福祉国家の未来
 
第12章 韓国 
  ⅰ 韓国における国家形成とその変容
    ――脱植民地化をめぐる競争・「企業家的国家」による体制競争・ポスト競争下の「先進国化」(木宮正史)
  はじめに
  一 近代国家建設の挫折
  二 植民地国家と朝鮮社会
  三 冷戦体制下の南北分断と脱植民地化をめぐる競争
  四 韓国における「企業家的国家」の成立と発展
  五 ポスト体制競争期の先進国化
  結びに代えて
 
  ⅱ 韓国の経済成長――台湾・日本・米国との比較 (金 洛年)
  はじめに
  一 体制転換と経済制度
  二 キャッチアップと資本形成
  三 成長と所得分配
  結び
 
 
■第3巻 各国史2 東南アジア
 
第4部 東南アジア
 
第13章 フィリピン
  ⅰ 米国と近代フィリピン国家の成立 (パトリシオ・N.アビナーレス)
  はじめに
  一 論理
  二 方法
  三 結果
  四 結論
  おわりに
 
  ⅱ フィリピンの政治課題と国家建設 (高木佑輔)
  はじめに
  一 独立準備と第二次世界大戦
  二 戦災復興と独立
  三 冷戦と開発
  四 体制変動と自由化
  五 二つのピープルにどう向き合うか――経済発展と社会発展の模索
  おわりに
 
第14章 シンガポール
  シンガポールの国家建設
   ――「脆弱な都市国家」の権威主義体制の成立と継続 (田村慶子)
  はじめに
  一 1945年までのシンガポール――イギリス植民地時代の日本軍政期
  二 「脆弱な都市国家」の誕生
  三 「脆弱な都市国家」の生き残り――開発主義体制の構築
  四 マレー系への「統制」
  五 新たな社会変動
 
第15章 インドネシア
  インドネシアの国家建設――分裂の危機と克服の政治史 (相沢伸広)
  はじめに
  一 舞台設定:植民地国家 (領邦) の形成――オランダ領東インドと分割統治政策 (1920~42年)
  二 日本占領時代 (1942~45年)
  三 独立国家の建設とスカルノ時代 (1945~65年)
  四 スハルト時代の経済発展 (1965~98年)
  五 金融危機と民主化時代 (1998~2017年)
  おわりに
 
第16章 ベトナム
  ベトナムにおける国家建設 (栗原浩英)
  はじめに
  一 フランス領インドネシア連邦時代の統治と抵抗運動 (19世紀半ば~1945年)
  二 モザイク国家の形成と南北分断への道 (1945~54年)
  三 南北分断と武断主義 (1954~75年)
  四 社会主義建設の時代 (1976~86年)
  五 一国社会主義の時代 (1990年代~)
  おわりに
 
第17章 ミャンマー
  ビルマ (ミャンマー) 国家建設の歴史過程
   ――三度の挫折と四度目の挑戦 (根本 敬)
  はじめに
  一 英領期ビルマの国家体制
  二 独立後の国家建設の試み1 (議会制民主主義の挫折 1948~62年)
  三 独立後の国家建設の試み2 (軍による社会主義推進の挫折 1962~88年)
  四 独立後の国家建設の試み3 (軍事政権による支配 1988~2011年)
  五 国家建設への四度目の挑戦 (民主化,国民和解と経済成長に向けて 2011年~)
  おわりに――課題としての排他性克服
 
第18章 マレーシア
  マレーシアの国家建設――エリートの生成と再生産 (鈴木絢女)
  はじめに
  一 植民地国家の成立
  二 現地勢力の排除と包摂
  三 日本軍政と新たな国家構想
  四 戦後国際秩序と独立国家マラヤ
  五 BN政治経済システムの建設
  六 BN体制の変容と終焉
  七 マレーシアの国家建設
 
19章 タイ
  タイにおける国民国家建設――統合と対立 (柿崎一郎)
  はじめに
  一 統合の開始 (19世紀後半~1932年)
  二 統合の進展 (1932~57年)
  三 統合の加速 (1957~73年)
  四 統合から対立へ (1973~2001年)
  五 対立の顕在化 (2001年~)
  六 誰がタイを作り上げてきたのか
  おわりに
 

関連情報

公開ウェビナー:
第1セッション「『20世紀の東アジア史』から21世紀を考える」 (日本国際問題研究所 | YouTube 2021年7月21日)
https://www.youtube.com/watch?v=bpXxS3ExYw0
 
第2セッション「『20世紀の東アジア史』から21世紀を考える」 (日本国際問題研究所 | YouTube 2021年7月21日)
https://www.youtube.com/watch?v=0sjIZa2YY-U
 
第3セッション「『20世紀の東アジア史』から21世紀を考える」 (日本国際問題研究所 | YouTube 2021年7月21日)
https://www.youtube.com/watch?v=hI96WRd7GB0
 
書評:
酒井哲哉 (東京大学大学院総合文化研究科教授) 評 (『東京大学教養学部報』624号 2021年1月5日)
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/booklet-gazette/bulletin/624/open/624-04-3.html

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