東京大学のアクティブラーニング 教室・オンラインでの授業実施と支援
本書は、東京大学におけるアクティブラーニング (AL) について、これまでの取り組みをふりかえり、これからのありかたを構想するために編まれたものです。大学関係者はもちろんのこと、教育に携わるすべての方々に読んでいただきたいと考えています。その中には、もちろん、日々の授業を受けている、つまりALの主人公である学生の皆さんも含まれます。ふだんは「表」しかみえない授業の「裏」を覗くことができるかもしれません。
「アクティブラーニング」という言葉が人口に膾炙するようになってから、ずいぶんと時が経ちました。AL関係者にとって喜ばしい事態ですが、同時にAL自体が目的化してしまっているのではないかと不安に思う場面が出てきたのも事実です。ALがバズワードのようになってしまい、形だけALを取り入れるといったことさえみられます。しかし、本来、ALは目的ではなく、あくまでも手段です。授業の目的・目標、つまり授業終了後に受講者が到達するべき状態が、それぞれの授業で明確化されたうえで、そうした状態に到達しやすくするための手段として、グループディスカッション、ロールプレイ、ジグソー法、反転授業、プロジェクト学習といったAL手法が検討されるべきです。
このような問題意識を踏まえて編まれた本書は、2部構成となっています。序章に続く第1部「アクティブラーニング型授業」(第1~9章) では、東京大学におけるAL型授業の具体例について、人文・社会科学、自然科学、教育手法開発の各分野から3授業ずつとりあげています。各授業における工夫や授業改善の軌跡について、授業担当教員自身が紹介しています。各教員は、授業の目的・目標が妥当なものであるか、目的・目標に見合ったAL手法を選んでいるかを学期中・学期後にふりかえり、常に改善を図っています。そうした試行錯誤について具体的に記されているところは、読みどころかと思います。
第2部「アクティブラーニング型授業を支える取り組み」(第10~12章) では、ティーチング・アシスタント (TA) による授業支援、教養教育高度化機構アクティブラーニング部門スタッフによる授業支援、AL解説教材作成といった取り組みについて、TAやスタッフ自身が、座談会形式で紹介しています。よりよい授業のために改善を試みているのは、教員ばかりではありません。支援業務の試行錯誤について具体的に記されているところにも、注目していただければと思います。
終章では、これまでの試行錯誤を踏まえ、これからの授業実施・支援のありかたを展望しています。教室にせよオンラインにせよ、より効果的な学習のために、どのようにALを用いるべきか、試行錯誤がまだまだ続きます。幸いなことに、ALは初等中等教育にも広がっています。校種を超えて、また教える側と教えられる側という関係を超えて、意見交換のできる場が増えていくのに本書が少しでもお役に立てば幸いです。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 特任助教 中村 長史 / 2021)
本の目次
(山口和紀,齋藤希史,星埜守之,網野徹哉)
1.教養教育高度化機構アクティブラーニング部門
2.駒場アクティブラーニングスタジオ(KALS)
3.本書の構成
I アクティブラーニング型授業
第1章 聖火リレーと江戸名所
―文系の初年次ゼミの授業事例(田村 隆)
1.初年次ゼミナール文科
2.授業開始
3.発表とフィードバック
4.狭山の池
第2章 平和のために東大生ができること
―海外研修の準備授業の事例(岡田晃枝)
1.授業の背景情報
2.授業の目的・到達目標と構成
3.授業設計・実施における工夫
4.オンライン化への対応
5.おわりに
第3章 模擬国連で学ぶ国際関係と合意形成
―ロールプレイの授業事例(中村長史)
1.授業の背景情報
2.授業の目的・到達目標と構成
3.授業設計・実施における工夫
4.授業改善の軌跡
5.オンライン授業での工夫
第4章 液体としての水の特性と分子自己集合を考える
―理系の初年次ゼミの授業事例(平岡秀一)
1.授業の背景情報
2.授業の目的・到達目標と構成
3.授業設計・実施における工夫
4.授業改善の軌跡
5.オンライン授業における工夫
第5章 植物多様性をテーマとした論文執筆を学ぶ授業
―オンラインデータベースに基づく授業事例(Diego Tavares Vasques)
1.授業の背景情報
2.授業の目的・到達目標と構成
3.授業設計・実施における工夫
4.授業改善の軌跡
5.まとめ
第6章 アクティブラーニングによるWebプログラミング実習
―反転授業の事例(吉田 塁)
1.授業の背景情報
2.授業の目的・到達目標と構成
3.授業設計・実施における工夫
第7章 大学教育開発論
―「教える」をじぶんごとにする授業事例(栗田佳代子)
1.授業の背景情報
2.授業の目的・到達目標と構成
3.授業設計・実施における工夫
4.授業改善の軌跡
5.オンライン授業での工夫
第8章 学生がつくる大学の授業 反転授業をデザインしよう!
―学生参加型の授業づくりの事例(小原優貴,福山佑樹,吉田 塁)
1.授業の背景情報
2.授業の目的・到達目標と構成
3.授業設計・実施における工夫
4.授業の振り返りと改善の軌跡
5.今後の展開の可能性
第9章 SDGsを学べる授業をつくろう
―学生による授業づくりの事例(中村長史,小原優貴,伊勢坊綾)
1.授業の背景情報
2.授業の目的・到達目標と構成
3.授業設計・実施における工夫・改善
4.オンライン授業での工夫
II アクティブラーニング型授業を支える取り組み
第10章 座談会 TAによる授業支援
1 司会(伊勢坊綾)/座談会参加者(宮川慎司,田中李歩,九島佳織,須藤 玲)
2 司会(小原優貴)/座談会参加者(Diego Tavares Vasques,中村長史)
1 TAが語る授業支援の具体例
KALS TAになった経緯
KALS TAとしての授業支援
オンライン授業における授業支援
TAとしての支援の在り方
授業支援以外の活動
TA経験からの学び
未来のKALS TAへ
2 若手教員が振り返るTA経験の意義
TAを担当することになった経緯
TAとしての役割を学んだこと
教室空間と学びの関係
教育実践に活きるTAの強みへの気づき
TAの指導・育成について
現役TAへのアドバイス
第11章 対談 スタッフによる授業支援
司会(伊勢坊綾)/対談者(中澤明子)
アクティブラーニング部門設置当時の授業支援
KALS TAの育成
KALS TAの育成に関する研究
COVID-19を経たアクティブラーニングの支援・展望
第12章 座談会 アクティブラーニング解説教材作成
1 司会(小原優貴)/座談会参加者(中澤明子,福山佑樹)
2 司会(伊勢坊綾)/座談会参加者(小原優貴,福山佑樹,脇本健弘)
3 司会(伊勢坊綾)/座談会参加者(小原優貴,福山佑樹,吉田 塁)
1 「+15minutes」作成
教材作成の背景
工夫した点―手法の選択、構成など
大変だったこと,苦労したこと
学内外での反響
アクティブラーニング手法に関する教員向け教材作成の今後
2 映像教材作成
教材制作の背景
工夫した点―手法の選択,構成など
大変だったこと,苦労したこと
映像の活用
映像評価を研究に
アクティブラーニング手法に関する教員向け教材制作の今後
3 「+15minutes実践編」作成
教材作成の背景
工夫した点―手法の選択,構成など
冊子の活用
終 章 東京大学のアクティブラーニング
―総括と展望(伊勢坊綾,中澤明子,星埜守之)
1.各章の内容
2.授業改善の軌跡
3.東京大学におけるアクティブラーニングの展望:効果を発揮させる支援
4.東京大学におけるアクティブラーニングの展望:オンラインの活用
関連情報
https://dalt.c.u-tokyo.ac.jp/
アクティブラーニングTips:
https://dalt.c.u-tokyo.ac.jp/tips/
ALニュースレター、『+15 minutes』など:
https://dalt.c.u-tokyo.ac.jp/publication/
駒場アクティブラーニングスタジオ (KALS):
https://dalt.c.u-tokyo.ac.jp/kals/
イベント:
第3回 模擬国連ワークショップ (東京大学大学院総合文化研究科・教養学部付属教養教育高度化機構アクティブラーニング部門 2021年9月12日)
https://dalt.c.u-tokyo.ac.jp/event/event-info/mun_ws_2021_09_12/
オンラインワークショップ「オンラインでこそアクティブラーニング:アクティブで双方向的な授業のヒント」 (東京大学大学院総合文化研究科・教養学部付属教養教育高度化機構アクティブラーニング部門 2021年9月8日)
https://dalt.c.u-tokyo.ac.jp/event/event-info/a2996/
ワークショップ「東大生がつくるSDGsの授業」 (東京大学大学院総合文化研究科・教養学部付属教養教育高度化機構アクティブラーニング部門 2021年8月29日)
https://dalt.c.u-tokyo.ac.jp/event/event-info/a2972/