発達保育実践政策学研究のフロントランナー 全3巻セット
本書は、2015年7月に創設された東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センターにおいて2015年から2019年までの5年間に「関連SEED研究プロジェクト」として実施された30の研究をまとめた、全3巻の著作です。研究の問いや方法、結果と考察を、乳幼児の発達や保育・子育てに関心のある人たちへわかりやすく伝えることを目指しています。
「発達保育実践政策学」とは、乳幼児に関する自然科学、人文科学、社会科学等諸分野で実施されてきた研究を集約・発展させるとともに、知見の社会還元を目指して構想された統合学術分野です。発達保育実践政策学センターはその拠点として構築され、多様な視座から多くの研究プロジェクトを進めてきました。その中で、「関連SEED研究プロジェクト」は、あらたな学術分野の種 (SEEDS) をまくという意味をこめたプロジェクトです。教育学研究科の教員が責任者となり、学内外の若手研究者や院生と共同でそれぞれのテーマで研究を実施してきました。同じ研究科に所属していても、専門分野が違えば、お互いの研究を深く知る機会は必ずしも多いわけではありません。本プロジェクトでは、発達保育実践政策学の理念のもと、それまで交流のなかった分野の研究者たちが知見を共有して議論しあう場をつくることで、これまでにない発想や知見を生み出してきました。
しかし、5年という期間は長いようでいて、新しい試みを行うためには十分な時間ではありません。本書は発達保育実践政策学の完成形を示すものではありません。むしろその萌芽として、今後の可能性をひらくものとなることを期待しています。
第1巻は、「保育の実践科学」として、保育の実践に関する問いに基づく12の研究を収めています。保育者と子ども、子ども同士、保育者同士の関係性、保育の場や環境の構成やその場にいる人の認識・行動、保育者の専門性をテーマとする研究群です。
第2巻は、「保育・子育ての社会科学」として、人文・社会科学的なアプローチによって保育・子育ての問題に迫った10の研究が掲載されています。保育者・子育てをめぐる社会状況や政策、家庭教育と保育の関係、歴史と思想の視点から保育にアプローチした研究が含まれます。
第3巻は、「乳幼児の発達科学」として、乳幼児の発達のプロセスやメカニズム、そこにかかわる要因についての、基礎的な研究8編が集められています。
通常、別々の書籍となるであろう3つの巻がセットとなっていることで、多様な問いに触れることができます。どのトピックからでも読むことができますが、読み進めていくと、それぞれのトピックがつながりあっていることも実感できるのではないかと思います。子育て・保育に関わる問いの幅広さや複雑さを感じ取っていただけたら幸いです。そして、それが新たな問いにつながることを願っています。
(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 准教授 野澤 祥子 / 2022)
本の目次
刊行にあたって…秋田喜代美
はじめに…秋田喜代美
1.子どもの思いやりを見とる試み―園児の向社会的行動についての観察研究と保育実践への示唆…西田季里
2.園での食事経験を子どもの視点から探る試み―文化的・社会的営みとしての食事…淀川裕美
3.保育所5歳児クラスの話し合い場面における参加の構造と保育者の支援…呂 小転
4.絵本選びについて学ぶ保育者向け研修プログラムの開発とその展開―ある公立幼稚園における地域・大学との協同的実践の記録…植阪友理
5.子どもの遊び場に関する子どもや保育者の視点…宮本雄太
6.遊び場に関する幼児・児童・保育者の認識…宮本雄太・杉本貴代
7.地域・乳児戸外環境調査結果…宮田まり子
8.保育室の変遷とその生態学的考察…山崎寛恵
9.保育者の保護者との関係構築に関する検討―保育者の専門性を活かした保護者支援に向けて…衛藤真規
10.子どもの「育ち」を支える病棟保育の専門性…石井 悠・遠藤利彦
11.読み聞かせ場面を手がかりとした1歳児の遊びと学び合いの形成過程と保育者の専門性…杉本貴代
12.子ども・保護者とのかかわりにおける保育者の感情コントロールとメンタルヘルス…榊原良太
索引
編集代表・編集・執筆者一覧
【第2巻 保育・子育ての社会科学】
刊行にあたって…秋田喜代美
はじめに…小玉重夫
1.保育者養成の高学歴化…両角亜希子・長島万里子・松村智史
2.保育士が経験する予想と現実のギャップーフルタイム・パートタイム・離職者に注目して…森川 想・関智弘・天野美和子
3.保育需要と供給の実証的研究…山本 清
4.保育と政治―政治は自治体における保育の質に影響を与えるのか…村上祐介・小玉重夫
5.幼稚園、保育所における自己評価の政策と実践に関する一考察…佐々木織恵
6.働く母親の時間負債をめぐるジレンマー「教育時間」と「自由時間」の創出にみる階層格差…額賀美紗子・藤田結子
7.モンゴル国における幼児・学童期の家庭の教育関与…中村絵里
8.日本における保育研究の歴史的展開―東京保育問題研究会に着目して…浅井幸子・若林陽子
9.シティズンシップ教育としての就学前教育の可能性―「自然保育」を通した保育実践及び政策の理論的検討…山口美和
10.「保育の質」を超えてーボスト基礎づけ主義の保育学の展開…浅井幸子
索引
編集代表・編集・執筆者一覧
【第3巻 乳幼児の発達科学】
刊行にあたって…秋田喜代美
はじめに…遠藤利彦
1.低出生体重児の発達特性と発達支援…儀間裕貴
2.「気になる子ども」にまつわる保育者の職務負担感と保育環境の質との関連…高橋 翠
3.6・7か月児の入眠時の自律神経活動―午睡時の寝かしつけに伴う交感神経・副交感神経活動…佐治量哉
4.乳児の運動計測技術による発達理解とその未来…新屋裕太・藤井進也・奥絢介・渡辺はま・多賀厳太郎
5.デジタル絵本と子どものかかわり―5歳児の小集団での検討…野澤祥子
6.育児期における母親の心身の健康維持を目的とした生体リズム調整手法の開発…清水悦子・中村 亨・山本義春
7.母親と子どものやりとりにおける感情語の発話―1歳5か月から4歳9か月までの断続的検討…浜名真似
8.妊娠期の夫婦の困難さの低減につながる夫婦関係についての検討…大久保圭介・平田悠里
索引
編集代表・編集・執筆者一覧
関連情報
5年間の研究成果まとめる 東大Cedepが書籍 (日本教育新聞 | NIKKYO WEB 2021年5月3日)
https://www.kyoiku-press.com/post-229849/