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ピンクの表紙に馬に乗った将軍の絵

書籍名

ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 吾妻鏡

判型など

784ページ、文庫判

言語

日本語

発行年月日

2021年11月20日

ISBN コード

9784044004071

出版社

KADOKAWA

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吾妻鏡

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『吾妻鏡』は鎌倉幕府の歴史を日記風に記した歴史書であり、鎌倉時代の後期に、鎌倉幕府の関係者によって、将軍単位の年代記として編纂されたと考えられている。
 
『吾妻鏡』には、初代の将軍となる源頼朝のもとに、平家の追討を命じる以仁王の令旨 (命令書) が届き、頼朝が挙兵した治承四年 (一一八〇) から、六代目の将軍である宗尊親王が鎌倉から京都に送還された文永三年 (一二六六) までのできごとが、途中に十年分ほどの記事の欠落を含みながら、記されている。具体的には、鎌倉幕府の成立、幕府に結集した武士たちの活動、幕府で行われた政治や行事、朝廷とのやり取り、鎌倉やその周辺で起こった様々な出来事が記されており、鎌倉幕府や鎌倉時代の歴史を考える上では必要不可欠な史料である。
 
江戸幕府を開いた徳川家康は『吾妻鏡』を愛読しており、それまでは筆写した本しか存在しなかった『吾妻鏡』を活字版で刊行し、これをきっかけに『吾妻鏡』は多くの人々に読まれるようになった。
 
また、太宰治の「右大臣実朝」は、鎌倉幕府の三代目の将軍である源実朝の半生を、実朝の側近に仕えた一人の武士の語りを通して描いた小説であるが、随所に引用された、出来事をそのまま淡々と書き綴る『吾妻鏡』の文体が、本文の武士の語りの文体と好対照をなしており、作品全体にメリハリを与えているように感じられる。
 
『吾妻鏡』は『平家物語』に比べると、一般にはあまりなじみのない書物かもしれないが、簡潔な文体ともあいまって、とても興味深く、魅力的な書物なのである。
 
ただし、『吾妻鏡』は分量が多く、原文は、変体漢文と呼ばれる、日本で変化した独特の漢文で記されており、その全体を読み通すには、一定の訓練と努力が必要となる。また、これまでに、原文、書き下し文、現代語訳はそれぞれ刊行されているが、これをセットとした書籍は刊行されていなかった。
 
そこでこの本では、『吾妻鏡』から鎌倉時代の歴史をたどるうえで重要な事件や、鎌倉時代の社会を考えるうえで重要な出来事を中心に、各年から一つ以上の記事を選んで採録した。また、『吾妻鏡』の本文が欠落している年については、その年の主要な出来事を書き記した。この本を読めば、『吾妻鏡』に描かれた鎌倉幕府の歴史の大きな流れが把握できるはずである。
 
また、採録した記事については、現代語訳・振り仮名付きの書き下し文・語注・解説・返り点付きの原文をセットとして示し、初めて『吾妻鏡』を読もうとする人にも分かりやすくなるように、また、変体漢文で記された歴史史料の読解の練習にも利用できるようにした。そのため、記事の採録にあたっては、文書の引用された記事も多く選んでいる。
 
この本を入り口として、『吾妻鏡』の面白さ、歴史史料を読むことの面白さを感じて欲しい。
 

(紹介文執筆者: 史料編纂所 准教授 西田 友広 / 2022)

本の目次

はじめに
凡例
頼朝将軍記 一 挙兵
頼朝将軍記 二 諸国平定
頼朝将軍記 三 征夷大将軍
頼家将軍記
実朝将軍記
頼経将軍記
頼嗣将軍記
宗尊将軍記
解説 吾妻鏡の成立・受容・諸本

関連情報

書籍紹介:
Today’s Library | 今週の一冊 (パナソニック・メロディアス・ライブラリー 2022年6月26日放送)
https://www.tfm.co.jp/ml/today/index_20220626.html
 
下村周太郎氏 執筆 (『鎌倉遺文研究』49号 2022年4月)
http://www.yoshikawa-k.co.jp/book/b603201.html
 

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