東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

クリームイエローの表紙

書籍名

精読行政法判例

著者名

海道 俊明、須田 守、 巽 智彦、 土井 翼、西上 治、堀澤 明生

判型など

646ページ、B5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2023年12月4日

ISBN コード

978-4-335-35949-1

出版社

弘文堂

出版社URL

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精読行政法判例

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本書は、日本の行政法を学習するための判例集である。六法・教科書・判例集は、日本の法を学ぶ上で必須の教材、いわば三種の神器であるが、その中で判例集は、学生にとって最も持て余しやすいものであり、テレビと同様「もたない」「みない」学生が増えているように見うけられる。たしかに、いまや主要な裁判例は裁判所自身がインターネットで無料公開しているから、学生が判例集を「もたない」ことも分からないではない。またそもそも、判例の原文に当たるよりは、その要約をした教材を読む方が効率がよいと判断して、判例集を「みない」という学生がいることも想像に難くない。そんな中、今の時代においてなお買って読む価値がある判例集をめざし、本書の編集に当たっては以下の点に腐心した。
 
第一に、本書は66件の表題判例の判決文・決定文の全文を掲載している。これは同じ出版社から刊行されている『精読憲法判例』のコンセプトを引き継いで、編者・執筆者による抜粋ないし要約を読むのではなく、全文を「精読する」ことに重きを置いたものである。他方で、抜粋したり参照したりした裁判例を含めると総計400程度あり、実は既存のケースブックや複数巻の判例集に引けを取らない掲載数を誇るが、その割には価格を抑えたというのが一つの売りである。
 
第二に、判決文・決定文の指示語・接続語等を整理する傍線等を付し、横で逐一その論理構造をまとめたうえで、最後に表や図で論理構造の全体を一覧できるようにしている。『精読憲法判例』が実務上・学説上の評価を併記しているのに対し、本書ではそれを避けている。その理由は、まずは裁判例の論理それ自体を正確に把握し、それらが何を語っている(いない)のかを明確にすることに重きを置いたからである。こと行政法に関しては、この作業をどんな裁判例についても自力でできるかどうかが、法律家の能力を決定的に左右しており、自力で読み進めるだけでもそうした能力を涵養できるところに、本書の最大の意義がある。
 
最後に、本書では、以上の目的を十全に達成できるよう、事件当時の法律・条例・政省令・規則・通達等を掲載している。裁判例の論理を内在的に解明するためには、その事件当時に通用していた法文を正確に特定する必要があるが、行政法の分野は法改正が多く、細かい法令であれば過去の法文を探索すること自体が容易でないことも多い。意外にも、当時の法文とセットで裁判例を紹介する教材は数少なく、本書は画期的なものと自負している。当時の法文の探索にご協力いただいた自治体の関係者の方々には、改めて御礼を申し上げる。
 
本書の編者6名は、近い時期に法科大学院を修了して(新)司法試験に合格し、それぞれの勤務校で法学教育に従事する中で、本書のコンセプトにつながる教育上の悩みを共有するに至った。研究面のみならず教育面でも心強い仲間がいることを再確認できたのが、個人的な一番の収穫であった。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 准教授 巽 智彦 / 2024)

本の目次

第1章 基本原理
第2章 行為形式
第3章 裁量
第4章 行政法の一般的制度
第5章 行政争訟総論
第6章 処分性
第7章 原告適格
第8章 訴えの利益・訴訟承継
第9章 訴訟類型ごとの論点
第10章 国家賠償
第11章 損失補償
 

関連情報

自著解説:
一橋教員の本:土井翼 著者コメント (一橋大学ホームページ 2023年)
https://www.hit-u.ac.jp/academic/book/2023/240115_2.html
 
書籍紹介:
「もういちど考えてみる法学学習」特集 (『法学教室』No.532 2025年1月号)
https://www.yuhikaku.co.jp/hougaku/detail/021438

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