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中国農村のダムの写真

書籍名

中国農村での環境共生型新産業の創出 森林保全を基礎とした村づくり

著者名

菊池 真純

判型など

192ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2023年7月27日

ISBN コード

978-4-275-02181-6

出版社

御茶の水書房

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中国農村での環境共生型新産業の創出

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本書の「中国農村での環境共生型新産業の創出」という題名は、前もって主題の設定をし、それに基づいて各調査研究を長年実施してきた、というものではない。筆者は、環境社会学を専門分野し、農村地域の環境問題、環境保全に最大の関心を寄せてきた。各調査地域の選定は、先輩研究者らの調査への同行や紹介、また自身で開拓した地域、とそれぞれであるが、2007~2023年まで、いずれの地域でも人々との対話を繰り返し、質的調査研究を実施してきた。このように、個別に行ってきた調査研究ではあるが、いずれの地域も自然環境の保全を基盤とし、そのうえで新たな産業を村内に作り出しているという共通点が見出された。この大きな共通の枠組みを見つけたことで、本書をまとめることが可能となった。
 
事例研究として、まず、貴州省畢節市黔西県素朴鎮古勝村は、国家政策である退耕還林工程実施の対象地域となったことをきっかけに、村内の自然環境の改善が進み、主要産業が畑作農業から果物生産業へと移行した地域である。
 
次に、内モンゴル自治区・阿拉善左旗・巴潤別立鎮・鉄木日烏徳嘎査 (ガチャ) では、草地を対象とした天然林保護工程 (実際は草地であるが政策の名目上は天然林)、退牧還草工程実施の対象地域となったことを契機に、村の主産業は、放牧業から畑作農業と酪農業へと変化を遂げている。
 
三つ目に、中国山東省済南市莱蕪区雪野鎮房幹村は、一貫した集団所有の体制の下、村民の自助努力により、村の環境改善と産業発展、貧困脱却を遂げてきた、今日大変裕福な村である。この村の産業は、伝統的に畑作農業であったが、現在は、植林の成果による豊かな森林資源に恵まれた自然環境を基盤として、観光業と医療・介護・保養業を村の主要産業として位置付けている。
 
最後に、広西壮族自治区桂林市龍勝県龍脊棚田地域は、少数民族が豊富な水源林を保全しながら、大規模な棚田耕作を行っている。今日、この棚田の景観が地域最大の資源となり、地域の主要産業は、水稲農業を残しつつも観光業へと展開している。
 
筆者が中国農村において、環境問題・環境保全を主題とする研究を行うなかで、常に直面したのは、農村における貧困問題、地域振興・発展の課題であった。環境問題と貧困問題は、それぞれが個別に存在しているのではなく、強い関連を持つ場合が多い。しかし、双方への対応は、併せて同時進行で行うことが困難な場合が多く、中国の政策でも、その多くが別々に存在してきた。それらが一定程度の緩和・解決を経て、今日、合流する形で、農村の発展を促す方向に進んでいる。まさに、豊かな自然環境、とりわけ森林資源の保全を基盤とした「中国農村での環境共生型新産業の創出」である。筆者が中国農村で調査を開始した当初は、劣悪な農村・苦しい農民・収益の低い農業という三農問題が主流であった。しかし、今日、自然環境の改善が進み、振興・発展を遂げる中国農村においては、明らかに異なる段階へと変化・発展してきている。
 
本書では、四つの地域の事例をもとに、環境共生型新産業の発展に関して、それぞれの発展形態の特徴を考察し、またそこでの共通点を模索することで、理論の一般化・普遍化を目指す。さらに、従来、中国農村に存在し続けてきた環境問題と貧困問題という難題への取り組みと変化から、地域の持続可能な発展のあり方を考察した。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 特任准教授 菊池 真純 / 2025)

本の目次

はじめに 中国農村での調査研究
第 1 章 中国農村の環境問題
第 2 章 中国農村の貧困問題
第 3 章 退耕還林工程実施の村:畑作農業→ 果物生産業へ(貴州省)
第 4 章 退牧還草工程実施の村:放牧業→ 畑作農業・酪農業へ(内モンゴル自治区)
第 5 章 集団所有の村:畑作農業→ 医療・介護・保養業へ(山東省) 
第 6 章 少数民族の棚田の村:棚田水稲農業→ 観光業へ(広西壮族自治区)
第 7 章 環境共生型新産業の発展モデルの考察
おわりに
 

関連情報

公益財団法人アジア・オセアニア財団2023年度出版助成
https://www.resona-ao.or.jp/project/promotion/pdf/jyosei/2023_josei_public.pdf
 
書評:
堀靖人 (東北農林専門職大学) 評 (『林業経済』77巻6号p.19-23 2024年10月1日)
https://doi.org/10.19013/rinrin.77.6_19
 
平野悠一郎 評 (『中国研究月報 Monthly journal of Chinese affairs』第917号p.42-44 2024年7月)
https://www.institute-of-chinese-affairs.com/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%9C%88%E5%A0%B1

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