過去の「超温暖化」を終息させたメカニズム インド洋の深海堆積物に記録された海洋生物生産フィードバック
東京大学大学院工学系研究科の安川和孝助教と加藤泰浩教授らの研究グループは、約5600~5200万年前の前期始新世という時代に繰り返し発生した急激かつ短期的な地球温暖化イベントが、海洋の生物生産の増大により大気中の二酸化炭素が効率的に除去されたために終息したことを明らかにしました。本研究の成果は、人類の活動によって放出された大量の温室効果ガスが地球の環境や物質循環にどのような影響を与え、どのようにして元の状態へ回復していくのかを、数万年以上の長期スケールで予測する上で重要な知見となります。
前期始新世は、恐竜が絶滅した約6600万年前から現在までの新生代の中で、最も温暖な時代でした。この温暖な気候に加えて、さらなる温度上昇を伴う「Hyperthermals (超温暖化)」と呼ばれる、急激かつ短期的な地球温暖化イベントが繰り返し発生しました。その原因は、大量の温室効果ガスが急激に大気−海洋系へ放出されたためと考えられています。この「超温暖化」イベントの痕跡は、太平洋や大西洋、ヨーロッパや北アメリカなど世界各地から報告されているにも関わらず、インド洋においてはほとんど見つかっていませんでした。
本研究グループは、過去の国際深海掘削計画によりインド洋で掘削された深海堆積物コアから試料を採取し、化学分析を行いました。その結果、「超温暖化」イベントを示す炭素同位体比の明らかな異常が複数確認され、世界で初めてインド洋における「超温暖化」の痕跡を高時間解像度で復元することに成功しました。さらに、独立成分分析という手法を用いて、化学組成データを統計的に解析した結果、これらの「超温暖化」イベントにおいて、海洋表層の生物生産が増大して大気−海洋系から余分な二酸化炭素を除去する「地球システムの負のフィードバック」と呼ばれるメカニズムが働き、温暖化を終息させていたことが明らかとなりました。
「人類が現在放出している大量の温室効果ガスが地球環境にどう影響するのかを、数万年以上の長期スケールで正確に予測することは難しいため、過去の環境変動の記録を読み解くことが重要な鍵となります」と安川助教は話します。「今後、地球が持つ温暖化からの回復メカニズムをより詳しく理解することにより、人類社会の時間スケールで私達が何をすべきかを示すヒントが得られるのではと期待しています」と続けます。
論文情報
Earth system feedback statistically extracted from the Indian Ocean deep-sea sediments recording Eocene hyperthermals", Scientific Reports Online Edition: 2017/09/12 (Japan time), doi:10.1038/s41598-017-11470-z.
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