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第6回「やっぱり物理が好き!」を開催 ~物理に進んだ女子学生・院生のキャリア~

掲載日:2021年12月14日

 

2021年11月6日 (土) 、カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) と物性研究所、宇宙線研究所の主催により、物理を学ぶ女子学部生及び女子大学院生の支援を目的に第6回目となる「やっぱり物理が好き! ~物理に進んだ女子学生・院生のキャリア~」をオンラインで開催しました。今回は過去最大の48名の参加がありました。本イベントは、様々な講師の方をお招きしてキャリアパスを提示すると共に、参加者同士のネットワーク作りや物理学分野 (物性・物質科学、物理工学、素粒子・原子核、宇宙・天文等) の魅力を伝える機会として行われてきたものです。

冒頭に森初果物性研究所所長より、第6回となった「やっぱり物理が好き!」のこのイベントがどういう経緯で始まったかのエピソードを交えての開会挨拶があり、その後に講演に移りました。1人目の講演者、理化学研究所白眉チームリーダーの川上恵里加さんは、「やっぱり量子が好き」と題して講演しました。大学時代から現在に至るまでの経歴を話す中で、特に大きなターニングポイントとなったいくつかの経験やエピソードを紹介しました。なかでも、イタリアのフィレンツェ大学でのインターンでは、チューターの先生方から「研究者として生きるのはどういうことか?」を教えてもらったことが自身のキャリアにとって大きかったと語りました。更に、博士課程で進学したオランダのデルフト工科大学では、研究を進める中で予想と違ったことがあっても面白いことがあると実験結果から身をもって知ることができ、この経験によって物理が大好きな自身が作りあげられたと述べました。しかし一方で、留学や研究活動、体調面で辛かった時期があったことなども参加者に包み隠さず伝えていました。そうした中でも理解ある上司の助けなどもあり、現在はヘリウム表面上の電子を使って量子コンピューターを実現しようという自身の考えた研究テーマで研究室を主宰することができ、色々あってもやっぱり量子の研究が好きで続けているということを存分に伝えていました。

2人目の講演者は、株式会社 日本アイ・ビー・エムのコンサルティング事業部でシニアデータサイエンティストとして働く柏野桃子さんで、「データサイエンティストという働き方」と題して講演しました。自身の経歴から会社紹介、データサイエンティストの仕事や、1日のスケジュールなど具体的な働き方などについて順を追って紹介していきました。プライベートな内容にもついて触れ、新卒入社して見習い期間が終わった後に結婚したこと、データサイエンティストとして働きはじめて後に1年半ほど会社の制度を使って休職し、宇宙物理学の研究者である夫のいたスイスでの生活を経験して職場復帰したことなどにも触れました。また、外資系やITの会社は大変なのではと心配の声を聞くこともあるが、健康的で文化的な生活が送れている実例として、自身はクラシックバレエの趣味を続けていることを紹介しました。そして、「趣味の時間は作り出すことが出来るし出来れば仕事以外に打ち込めるものがあった方が楽しいと思います」、と学生さんに向けたアドバイスを送っていました。また、データサイエンティストの仕事においては、学部や修士の時に学んだ素粒子物理や宇宙物理の知識は使わないものの、数学・統計学の知識、プログラミング経験をはじめとした様々なスキルは糧になっており、学生時代の勉強や研究は頑張っておくといいことも強調していました。更に、自らの行うデータサイエンティストの仕事は企業のお客様を相手にしており、様々なデータを活用してビジネス課題の改善のお手伝いをするとともに、その先の一般消費者の方の日々暮らしを少しずつ便利にしていく仕事と語りました。そして、物理を学んだ後の選択肢として自らの話が皆さんの可能性を広げるきっかけになったら嬉しいとして話を締めくくりました。

3人目は、奈良女子大学附属中等教育学校教諭の藤野智美さんで「物理という物語の『温度感』を伝えよう」と題して講演しました。まず経歴を話す中で、自身が高校生の頃に抱いた物理学に対する印象は日常感がなく、無機質な印象であったと語りました。しかし、学校の先生の影響もあり大学の理学部で物理学を学び、大学院生の時にはB中間子の対称性の破れの研究をすることになり、この時の研究経験が、自身の今の物理教員としてのキャリアに大きく影響していると述べました。具体的には、最先端研究においても、その際に基礎となる物理は高校生の時に学んだ概念であり、そのことに驚いたと語りました。そして、高校物理の机上でやることが最先端の研究につながっているという、物理法則が繋ぐ各事象の関連性を一つのストーリーとして繋げることで、生徒達に物理の「温度感」をどう伝えるかを常に考えていると述べました。そして、教員として関わってきた生徒達の様々な例にも触れ、生徒達のピュアな好奇心から発生する疑問によって逆に気づかされることも多く、生徒との関わりが自分の学びにも返ってきて、物理の「温度感」のイメージが飛躍し確立していくのが自らの仕事だと思うと語りました。加えて、教師という仕事は給与面や役職の就きやすさ等はじめ男女差をあまり感じない仕事であり、育休や産休に対する理解も高く男性教員も含め取得する人もいることを紹介しました。また、翌年から教える内容が急激に変わるなどはないため、企業に比べると変化が少ない業種ではあるとは思われるものの、それが逆に復帰前に持っていた知識や経験が十分活かせる職業とも言えるのではとも語りました。

4人目は、日本原子力研究開発機構 J-PARC センター 主任研究員で高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の特別教授も兼ねる佐野亜沙美さんで、「No pressure, No diamonds. - 圧力があってうまれる輝き」と題して講演しました。まず自身の携わる地球科学の概要を説明した後、その中でも特に自らは水素をキーワードに鉱物の物性を調べ地球科学の研究を行なっており、その手段として水素を見ることを得意とする中性子ビームを用いていることを紹介しました。そして、J-PARCで働き始めてからは、世界で唯一の大型プレスを持つ高温高圧中性子実験専用ビームラインPLANETの建設に携わり、現在ではそのPLANETを用いて自らの研究やビームラインを使いにきた研究者のサポートを日々の業務としていることも紹介しました。加えて、そうした研究のキャリアに並行する形でプライベートの話題も含めた経歴についても言及し、修士卒業後一旦就職してから博士課程に戻ってきた経緯や、加速器の長期シャットダウン中に半年間アメリカのカーネギー研究所に客員研究員として滞在した経験、子育てと研究の両立を職場の制度を使いながらどのように両立させてきたのかなども語りました。出産前の想像と子育てをし始めてからの現実との違いがどのようにあったかや1日の具体的なスケジュールも紹介し、今も試行錯誤し工夫しながら進めているのが現状と述べました。こうした現状においても、カーネギー研究所 での滞在を受け入れてくれた研究者が子育てしながら研究をしていたことが自分に良い影響を与えていることや、同研究所で出会った女性研究者のヴェラ・ルービン氏の "Device your own paths" という言葉が自らの支えとなっていると語り、講演を締めくくりました。

質疑応答の時間では、参加者からキャリアや大学院選択等に関する質問が相次ぎ、講師の先生方が一つ一つ丁寧に回答されていました。講演の合間には、物性研究所による国際超強磁場科学研究施設の紹介と電磁濃縮法で強磁場を発生させるデモ実験も行われました。閉会挨拶では、Kavli IPMU の村山斉主任研究者が自らのアメリカでの3人の子育て経験に触れる場面もありました。

閉会挨拶後は、自由参加の形式で SpatialChat を用いた交流会が行われました。交流会では、3研究所から計5名の大学院生もTAとして参加し、参加学生からの質問に個別に答えるなどしました。また、参加者同士で交流したり、講師へ積極的に話しかけに行き、更に沢山の質問を投げかける参加者の姿も見られました。

参加者アンケートからは、「周囲にロールモデルが少ないのでこのような企画は大変ありがたく、刺激的でした」「自分のやりたいことと実際に行動しなければならないことが少し結びついた気がします」「物理を学んでいるかつ興味を強く持っている同世代の方と関わる機会が少ないのでとても貴重な時間でした」「大学からの経緯や現在の生活スタイルを知ることができました。こうした情報がとても欲しかったので良かった」など、参加者から前向きなコメントや感想が数多く寄せられました。オンライン開催であったこともあり、関東圏のみならず東北地方や関西、九州・沖縄地方といった遠方の大学からも参加者がありました。

 


写真. 第6回やっぱり物理が好きの講師、参加者、スタッフの様子 (※集合写真撮影時にビデオ表示されていない参加者もいらっしゃいます)



写真. オンラインで行われた物性研究所の国際超強磁場科学研究施設の紹介。左は施設案内を担当した松田康弘研究室修士2年の竹村美雪さん




写真. SpatialChatを用いた交流の様子

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