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災害 × ジェンダー × 貧困の気になる関係

掲載日:2019年7月3日

このシリーズでは、未来社会協創推進本部(FSI)で「登録プロジェクト」として登録されている、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に貢献する学内の研究活動を紹介していきます。

FSIプロジェクト 010

 

社会が災害や危機に遭遇したとき、男性か女性かの違いによって、受ける被害が異なり、回復にも影響するのではないか──。プロジェクトのベースとなる大沢真理教授の疑問は、近年わが国を襲った2つの災厄に触発されたものでした。

1つは2008年のリーマン・ショックによる経済危機。先進国の多くが数年でV字回復するなか、日本だけ景気低迷が長引くなど、経済の脆弱性が明らかになりました。

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相対的貧困率が大きい社会では、一般的信頼が低い。日本社会はまさにそれに該当し、相対的貧困率は先進国中アメリカに次いで高く、「人は信頼できる」と考える人も3割程度しかいない。一般的信頼はまた、ICT投資の効果とも関連する。他人を信頼でき、上司が権限を部下に委譲しやすい社会の企業で、ICTなどの投資効果が高い。Society5.0を眼前にオープンイノベーションが重視されるいま、信頼社会の構築は急務である。

もう1つは2011年の東日本大震災。救援活動は遅々として進まず、震災から8年が経った今も復興は道半ば。日本社会は自然災害に対しても脆弱なのです。

日本社会の脆弱性は、ジェンダーの不平等と無関係ではありません。日本の税制や社会保障制度は、いまだに『終身雇用の男性が妻子を養う』形をベースにしているため、その形から外れてしまった非正規の人やシングルマザーは、どうしても不利益を被ります。「リーマン・ショックで製造業派遣の男性が雇い止めされたのも、震災で高齢者を介護している女性が多数犠牲になったのも、ジェンダーの問題」と、大沢先生は指摘します。

これまでの研究で明らかになったのは、災害の被害者には女性が多く、ジェンダー格差の大きな国ほど女性の被害が甚大になること。たとえばイスラム圏では、女性が人前で泳ぐことはもちろん一人で外出することも制限されているため、洪水などが発生すると、土地鑑がなく泳げない女性がしばしば犠牲になります。これはもちろんイスラムだけの問題ではありません。

さらにこのプロジェクトでは、ジェンダーと災害の関係に加え、貧困率や一般的信頼(人が他人を信頼できるかどうか)との関係をも探っています。結論からいえば、ジェンダー平等な社会ほど貧困率が低く、一般的信頼が高く、企業のICT投資の効果も高いことがわかってきました。

先進国のなかで、日本の貧困率が最も高い部類にあるのは、ジェンダー格差が大きいことが最大の要因。「日本経済を立て直し、災害に強い国に生まれ変わるためにも、今こそジェンダー平等を」と、大沢先生は強調します。

このプロジェクトが貢献するSDGs

ジェンダー平等を実現しよう貧困をなくそうすべての人に健康と福祉を質の高い教育をみんなに働きがいも経済成長も人や国の不平等をなくそう住み続けられるまちづくりをつくる責任つかう責任

大沢真理 教授 | 社会科学研究所(取材当時、現名誉教授)

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