日本のオリンピックを支えた東京大学の施設|オリパラと東大。
~スポーツの祭典にまつわる研究・教育とレガシー
半世紀超の時を経て再び東京で行われるオリンピック・パラリンピックには、ホームを同じくする東京大学も少なからず関わっています。世界のスポーツ祭典における東京大学の貢献を知れば、オリパラのロゴの青はしだいに淡青色に見えてくる!?
東京大学の施設
日本のオリンピックを支えてきた東大印のアイテムは人だけではありません。競技の会場として、代表チームの合宿地として、海外選手のトレーニング場所として、勝利に近づくための実験を行う施設として。それぞれの場所でそれぞれの時代にスポーツと平和の祭典に貢献してきた東大のレガシーを紹介します。
検見川総合運動場
検見川の地に総合運動場を建設する計画は、長與又郎第12代総長の指揮で始まりました。合言葉は「我々のグランドは我々の手で」。運動会を中心に学生勤労奉仕団が結成され、1938年の夏にのべ1174人もの学生が地ならし作業を敢行。意義深い奉仕活動を経て歩み出した運動場建設は、しかし戦時統制により困難となり、広大な用地は食糧難に対応する農場に転用されました。戦後、食糧供給地としての需要が下がってからはOB有志の手でゴルフ場に変貌。一般ゴルファーのほか、教養学部生の体育の授業にも一部使われましたが、1962年の国会で指摘を受けたのを契機に、本来の目的に立ち返ります。
この頃、東京オリンピックを前に選手強化対策本部のスポーツ科学研究委員を務めていたのが加藤橘夫先生(体育学)。選手強化に必要な芝生の練習場が日本に少ないことを知る先生は、検見川の広大な芝地を選手の強化に活用することを発案。これが関係各所に受け入れられ、国費と日本体育協会の支援を受けて整備された検見川の地は、ついに総合運動場として機能を発揮することとなったのです。
1964年。サッカー日本代表チームは検見川で3ヶ月間の長期強化合宿を実施。絨毯のような緑の芝生グラウンド、窓が高い位置にあって雨天時でも球を蹴れる体育館、体力を鍛えるのに最適な起伏に富むクロスカントリーコースを手にした代表チームは、10月14日に駒沢陸上競技場で行われた強豪アルゼンチン戦で3-2の逆転勝利を収め、グループリーグを見事に突破しました。サッカー代表選手の足腰を鍛えたコースは、近代五種の最終種目、クロスカントリー競技の会場にもなりました。馬術、フェンシング、射撃、水泳を終えた15カ国25人の選手が顔を揃えたのは10月15日。2日前は雨でしたが、当日は雲一つない秋晴れでした。皇太子殿下(現・上皇陛下)も見守る中、4000mコースで繰り広げられたレースでは、総合得点で首位に立つハンガリーのテレク選手がソ連のノビコフ選手を振り切って優勝。団体はソ連が2位のアメリカに大差をつけて制しました。いまは記念の額が残るのみですが、オリンピアから継がれてきた聖火は、確かに検見川の地を照らしました。
風洞実験施設(先端科学技術センター1号館)
先端研の1号館には人工的に風を発生させて空気抵抗などを調べるための木製風洞(通称「三米風洞」)があります。長距離飛行世界記録を作った航研長距離機や国産旅客機YS-11等の開発に貢献した実験施設です。「航空工学の父」といわれるセオドア・フォン・カルマン博士の指導を仰いで製作されたこの風洞では、スキージャンプの人形実験なども行われ、札幌オリンピックでは「日の丸飛行隊」(笠谷幸生・金野昭次・青地清二)が表彰台を独占しました。長野オリンピックで活躍した原田雅彦選手や船木和喜選手らが最適な姿勢を探るのに使ったことも。東大の施設は冬季オリンピックでも確実に貢献していました。
駒場グラウンド
米軍のワシントンハイツ跡地(現・代々木公園)に選手村が設置された1964大会。選手村からほど近い駒場キャンパスは、海外の陸上競技選手の練習会場として使われました。第一グラウンドがトラックと跳躍種目と砲丸投げ、ラグビー場はやり投げ、野球場は円盤投げ、第二グラウンドはハンマー投げの練習に、さらに完成したばかりのトレーニング体育館も選手の鍛錬に使われました。いまは老朽化が目立ちますが、当時の日本では画期的で、世界のトップ選手には必須の設備でした。施設の整備には国費の支援がありました。駒場のスポーツ環境の拡充は大会の賜物だったといえます。
田口文太関係資料より
東京帝国大学の卒業生で、陸軍薬剤総監の要職を務めた田口文太。若い頃から水泳に打ち込み、日本游泳連盟顧問、大日本体育協会参与、日本陸上連盟参与の座にもあった彼は、オリンピックの関係資料も多く残しました(東京大学文書館蔵)。徽章の「皇紀二五九二年」の表記やライオン歯磨の抽せん券からはその時代の独特の空気が、津島・田畑の挨拶状からは職を辞しても東京大会成功のために努力しようという、人生をオリンピックに賭けた男たちの情熱が伝わってきます。