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東大映画研究Now/丹羽美之 劇映画に負けない歴史を持つ記録映画1万本を収集・保存し活用へ

掲載日:2022年4月26日

UTokyo映画祭2022
カンヌやベルリンでやっているものとは違う、大学ならではの映画祭です。用意したのは、映画監督と研究者の対談、映画研究者4人による研究紹介、映画人として活躍する卒業生紹介、研究者12人が薦める映画作品集……。映画と大学の掛け算の成果をご覧ください。3、2、1、アクション!

劇映画に負けない歴史を持つ記録映画1万本を収集・保存し活用へ

丹羽美之/文
情報学環 教授
https://media-journalism.org

NIWA Yoshiyuki

 

記録映画保存センターによるフィルム移管作業

あなたは「映画」という言葉から、どんな作品を思い浮かべるでしょうか。多くの人がまずは劇映画、特に映画館で公開される商業的な娯楽作品を思い浮かべるのではないかと思います。しかし、映画の歴史を掘り起こすと、劇映画以外にも多種多様なタイプの映画があったことに気づきます。教育映画、文化映画、科学映画、ニュース映画、PR映画、ドキュメンタリー映画……。これらは映画館以外の場所で上映されることも多く、映画史では「傍流」と見なされてきましたが、劇映画に負けず劣らずユニークで豊かな歴史をもっています。

私の研究室では、2008年から記録映画アーカイブ・プロジェクトを立ち上げ、従来の映画史では忘れられがちな様々なタイプの記録映画を収集・保存する活動を続けてきました。実はいま、これら多くの貴重な記録映画が散逸や消失の危機にさらされています。保管状態が良くないためフィルムの劣化が急速に進んでいるだけでなく、制作会社の倒産や解散によってフィルムの廃棄や散逸もはじまっています。一度失われてしまえば二度と見ることのできない貴重な記録を救い出すために、記録映画保存センター国立映画アーカイブなどと連携しながら、保存活動を進めています。

私たちが最初のモデルケースとして取り組んだのが、戦後日本を代表する記録映画会社、岩波映画製作所が制作した約4000本のフィルム原版の収集・保存です。岩波映画製作所は1950年、物理学者の中谷宇吉郎が中心になり、岩波書店の後押しで科学映画や社会教育映画の制作をはじめました。その後、日本の高度経済成長を支えた電力、造船、製鉄、電機などの基幹産業を中心に、幅広くPR映画を世に送り出しました。これらは戦後日本の社会・文化・産業・科学技術のかけがえのない記録です。また岩波映画は数多くの名作や話題作、優れた映画人を輩出したことでも知られています。羽仁進、羽田澄子、時枝俊江、黒木和雄、土本典昭、小川紳介など、その後の映画界を担う若い作り手たちがここから育ちました。

「岩波映画の1億フレーム」「戦後復興から高度成長へ」「戦後史の切断面」の全3巻からなる『記録映画アーカイブ』のDVDブック(東京大学出版会)

記録映画アーカイブでは、この岩波映画を皮切りに、日本映画新社、英映画社、記録映画社、桜映画社、東京文映など、これまでに合計で約1万本の記録映画を収集しました。記録映画保存センターが中心となって、保存すべき記録映画の収集、複雑な権利処理(著作権や原版所有権など)、データベースの作成、国立映画アーカイブへのフィルム移管作業などを行っています。また収集したフィルムを活用して、シンポジウムや上映会の開催、DVDブック『記録映画アーカイブ』(全3巻)の出版、新作映画の公開などにも取り組んできました。今後も記録映画アーカイブの活動を通して、貴重なフィルムを救い出すとともに、劇映画にとどまらない映画の多様な可能性を発信していく予定です。

『たのしい科学』(1957-62、岩波映画製作所)
『町の政治』(1957、岩波映画製作所)
『佐久間ダム 総集編』(1959、岩波映画製作所)

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