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大学のプログラムをフル活用した遠州出身のフィルムメーカー/後藤美波さん

掲載日:2022年5月10日

UTokyo映画祭2022
カンヌやベルリンでやっているものとは違う、大学ならではの映画祭です。用意したのは、映画監督と研究者の対談、映画研究者4人による研究紹介、映画人として活躍する卒業生紹介、研究者12人が薦める映画作品集……。映画と大学の掛け算の成果をご覧ください。3、2、1、アクション!

大学のプログラムをフルに活用した遠州浜松生まれのフィルムメーカー

後藤美波さん
GOTO Minami
「東大時代に最も刺激を受けた授業は小林真理先生のアートマネジメント理論でした」
写真:貝塚純一

東大が2012年度から国内外で実施している体験活動プログラムは、学生が自分と異なる文化や価値観に触れるための取り組み。年間数十もの企画を多くの卒業生が支援してくれています。このプログラムで2014年夏に行われた「ロサンゼルスで映画を製作する」という企画に参加した一人が、『ドラゴン桜』ファンの父の影響で東大に進んだという後藤さん。当時は文学部で美術史を学ぶ3年生でした。

「制作現場の見学の際、向こうで映画を学ぶ先輩と話し、米国の大学のフィルムスクールというものを知りました。当初は美術館の学芸員志望でしたが、映像配信サービスの普及を見て、田舎でもアクセスしやすい映画の世界により大きな可能性を感じていた頃で、こっちかなと思いました」

もう一つ重要だったのは、学部生も出願できる情報学環教育部の研究生となって受けた授業で経験したドキュメンタリー制作です。上野のストリップ劇場に半年通って約10分間の短編を作った際の充実感が、卒業後の進路の決め手になったのです。そしてこの短編は、コロンビア大学大学院のフィルムスクールに応募する際の重要なポートフォリオとなりました。

「学費がすごく高く、学校のパーティーの残り物だけで数日間過ごすなど、1年目は貧乏暮しでしたが、2年目から米国伊藤財団FUTIなどの奨学金をいただいたおかげで楽になりました。映画制作の全般を学びましたが、規模や資金調達の面でも様々なやり方があるとわかったのが収穫でした」

在学中に構想を練った企画がShort Shorts Film Festival & Asia 2017で最優秀賞を受賞し、デビュー作を撮る権利を得た後藤さん。田舎の高校生が管理色の強い学校に小さな反乱を起こして状況を打ち破る姿を描いた『ブレイカーズ』(2018年)は、各国の映画祭で好評を博し、いまもオンライン配信されています。この映画の舞台として監督が選んだのは故郷の浜松でした。

「気軽にアクセスできる美術館も少ないし、テレビに映るのは東京ばかり。昔はずっと世界から取り残されている感覚がありました。そんな思いは後輩たちに味わわせたくない。映像を通して、自分の町も世界とつながっていると感じてほしかったんです」

2020年の『Shadow Piece』ではフェミニズムを考えるドキュメンタリーに挑戦し、焼津が舞台の最新作ではジェンダーによる役割固定の問題を織り込み、現在は静岡と東京と京都で生きる3人の女性を描く次回作の脚本を執筆中。若きフィルムメーカーの今後を楽しみにしているのは、遠州の後輩たちや体験活動プログラムの担当者だけではないでしょう。

 

『海の色は夢のつづき』
『青天を衝け』などに出演した長谷川直紀さん(焼津市出身)と宝塚で男役として活躍した永楠あゆ美さんの俳優夫妻が、Facebook経由で後藤監督(本作では南あさひ名義)にオファーしたことから実現した作品。海中カメラマンになる夢と、長く続いてきた家業である焼津なまり節工場を継ぐ責任との間で葛藤する主人公の成長を描く。2022年初夏以降、静岡県の複数館での上映を目指しています。

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