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白い表紙に明るめのグリーンで書名タイトルと帯

書籍名

[ FUKUOKA Uブックレット5] 映画、希望のイマージュ <香港とフランスの挑戦>

著者名

野崎 歓

判型など

67ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2014年2月15日

ISBN コード

978-4-86329-097-6

出版社

弦書房

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2013年6月に福岡市で行った二つの講演「香港映画は二度死ぬ - 中国返還以降の挑戦」「21世紀のフランス映画 - 希望のイマージュ」(福岡ユネスコ協会主催、福岡市総合図書館共催)の内容を再録したブックレット。21世紀初頭、世界が激しく変動するただなかにあって、映画はこれまで以上に社会を考え、社会をとらえ直すためのメディアという性格を強めている。そのことを香港、フランスという二つの共同体に注目して具体的に考えてみた。フランス文学を専門とする著者がなぜ映画について論じるのか、そしてなぜ香港映画なのかと尋ねられることがしばしばあるので、その点について自己解説しておこう。
 
フランス文学の歴史に顕著なのは、「リアルなもの」を求めての絶えざる革新の運動である。よりするどく現実を見つめ、かつより現実に密着した表現を可能にしようとしての戦いが一貫している。たとえば小説ではバルザック以後、どこまでリアルに書けるか、あるいはリアルだと思わせるような効果を発揮できるかが文学の目標になっていく。そこでは視覚的な要素がきわめて重要になり。作家たちは微に入り細を穿つ描写で現実をとらえようと競い合う。いわば世界を「可視化」しようとするその意思はまさしく映画を予告するものだし、また映画は文学を継承するものとして発展していくともいる。というわけで、フランスの文学や文化に深入りするならば、どうしたって映画にも取り組まなければならない必然性がある。
 
さらに重要なのは、フランスにおける独自の映画の運動というか、方向性である。フランソワ・トリュフォーやジャン=リュック・ゴダールやエリック・ロメールの名前に代表される、いわゆる「ヌーヴェル・ヴァーグ」、映画の新しい波が一九五〇年代末から勃興した。それ自体はもう昔の話ではあるが、しかし彼らの登場以後、今日まで、ある「別の」映画の流れ、ニュー・ウェイヴ的な動きが、ところを変えながら世界の各地で受けつがれてきた。少なくともフランスのヌーヴェル・ヴァーグに "かぶれた" 目で見ると、世界の映画にはそういう潮流が見えてくる。映画史的にいえば、第二次大戦直後のイタリアのネオレアリスモというのがまずあり、五〇年代末からフランスのヌーヴェル・ヴァーグが大々的に起こり、それがやがてアジアに飛び火していくというふうに考えられるのだ。では、それはどんな映画なのか。ひとことでいえば、それはよりリアルな映画、現実のただなかに分け入っていく映画、現実との生き生きとしたつながりのなかで作られる映画である。- という次第で、この手軽なブックレットが、香港の、そしてフランスの映画がいまどうなっているのかを知るための一助となれば幸いである。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 野崎 歓 / 2016)

本の目次

『香港映画は二度死ぬ』
「リアルなもの」を求めて
フランス・ヌーヴェル・ヴァーグと都市の映画
香港ニュー・ウェイヴに魅せられて
韓国映画と暴力
香港映画の様式性と向日性
植民地支配から中国返還へ
香港映画における「空間」と「時間」
映画が記憶を伝承する
「消失」にあらがう武器として
大陸へなびく香港映画
香港映画は逆襲する
未来都市からのメッセージ
『よみがえるフランス映画』
ヌーヴェル・ヴァーグに刺戟を受ける
アジア映画の勃興とフランス映画の復興
香り高いクロード・シャブロルの世界
大御所の安定した仕事ぶり
活躍する外国出身監督
ヌーヴェル・ヴァーグの申し子
リアルなパリの発見
『最強のふたり』のヒット
文化多元主義の戦略
希望のイマージュ
付録1 講演会レジュメ
付録2 『香港映画は二度死ぬ』で紹介された映画一覧
付録3 二十一世紀冒頭のフランス映画、暫定ベストテンを選ぶとすれば…

関連情報

UTOKYO VOICES 001 (2018年01月09日掲載)
人生の軸となる古典文学の復興を目指す | 大学院人文社会系研究科・文学部 教授 野崎 歓
http://www.u-tokyo.ac.jp/ja/news/topics/topics_z0508_00077.html
 

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