ライブラリ 経営学コア・テキスト 別巻1 コア・テキスト 経営統計学
世の中に統計学の教科書は数多く存在しているが、経営分野において有用となる統計手法を平易に解説した教科書はほとんどない。たとえば、本書で丁寧に解説している平均値の差の検定、クロス表の相関係数と検定、エラボレイションなどは、触れられているとしても、統計学の教科書の片隅に、ほんの少しだけ触れられているにすぎない。しかも、数理統計学的な記述に圧倒されて、そもそもそこまでたどり着けない学生がほとんどである。
そのため、調査データを分析した経営学の論文をきちんと理解できないだけではなく、実際に自分で卒業論文や修士論文を書く際にも、多くの学生はこれらの手法を理解できないままに、統計パッケージ・ソフトに頼って、その出力結果を転記するだけに終わってしまう。さらに、経営学分野では、データを実際に自分で調査して集めることが必要なケースも多いが、その際に必要となる社会調査法的な知識を解説した統計学の教科書もほとんどない。
実際、私が大学院生だった頃、頼まれて企業対象のアンケート調査を行ったが、何をどう分析すればいいのか皆目見当がつかず、当時、超難解な数理統計学の英語のテキストを読むセミナーでお世話になっていた統計学の先生の研究室に駆け込んだことがある。その先生が勧めてくれた「基本的な」統計学のテキストは、いずれも読んだことのあるテキストばかりで、困り果てた。数理統計学者は、統計学の実用的な使い方には興味がないらしい。
困った私は、当時、大型コンピュータ (いわゆるメインフレーム) のソフト開発や調査の統計処理で立派に生活費を稼ぎ出していた友人数人に頼み込んで、コンピュータの統計パッケージSPSSやSASの使い方の手ほどきを受けたり、統計パッケージのマニュアルを手当り次第に読みあさったりした。こうして初めて、私はクロス表の検定 (本書第5章) やクロス表の相関係数 (本書第7章) をどう使うのかを知ったのである。それは、調査屋さんの世界では常識のような統計ツールなのに、普通の統計学の教科書では見たこともなかった。同様に、平均値の差の検定 (本書第4章) にも随分とお世話になったが、これも統計学の教科書では、載ってはいても扱いが小さいこと小さいこと。こうして、使える統計ツールを集める私の旅が始まった。
本書はこうして巡り合った経営学分野で頻出の統計手法と社会調査法に的を絞って、様々な事例や設問にそって統計学の基本的な考え方を説明し、統計データを扱う感覚が身に付けられるように工夫している。またブラック・ボックスと化している高度な統計パッケージ・ソフトではなく、Excelを使うことで、実際の統計調査でも、統計手法をすぐに理解しながら使えるように工夫している。
(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 高橋 伸夫 / 2016)
本の目次
第1章 母集団と標本
第2章 度数分布
第3章 平均と分散
第4章 平均値の差の検定
第5章 クロス表の検定
第7章 クロス表の相関係数
第8章 回帰分析
第9章 より深い分析へ
第10章 標本誤差と標本サイズ
第11章 非標本誤差と回収率