住宅地のマネジメント 「まちネット」から学ぶまちづくりの知恵
「住まいのまちなみコンクール」は、住宅生産振興財団が、国土交通省の後援のもと、2005年から実施している顕彰事業である。これからは、住宅や住宅地を「住みこなす (マネジメントする)」技術も蓄積していかなければならない。そのためには、開発事業者や設計者だけが切磋琢磨するばかりではなく、住まい手にも切磋琢磨の場が必要だろう。ただ、しのぎを削って1等賞を目指す設計競技 (コンペ) というよりは、多くの経験者や知恵者が、互いのまちづくりの技を見せ合い、顕彰し合う、コンクールのような形がふさわしいだろう。というのが、この事業の企画時の議論だった。
こうして出発した「住まいのまちなみコンクール」は、戸建て住宅地を主体とした住まいのまちなみづくりに長年取り組んでいる居住者団体を対象に、その活動内容と形成されたまちなみを評価して、毎年1件の国土交通大臣賞と、4件の住まいのまちなみ賞を授与し、かつ、5つの受賞団体に対して、3ヶ年にわたり活動経費の支援を行うというプログラムとして出発し、2018年で第14回目を迎えた。
さらに、「まちコン」授賞式の場を借りて、全国のまちなみづくりに取り組む居住者団体が、おのおのの経験や知恵を、フラットに交換できる場づくりのために、「まちコン」受賞団体の同窓会である「住まいのまちなみネットワーク (通称: まちネット)」をつくり、毎年新規団体の「授賞式」に合わせて「総会」を開くということにしたのである。もちろん、総会のあとの「懇親会」の方が、重要な役割をもっている。
このように、「まちコン」から「まちネット」が生まれ、受賞団体同士の知恵の交換のきっかけができたのはよかったが、当初から気になっていたのが、こうした知恵が、これからまちづくりに取り組もうとしている居住者団体に、どうしたら届けられるのかということであった。受賞団体のその後の活動の様子を伺いに行くと、まさに目から鱗が落ちるようなアイデアや知恵がたくさん聞けるのだが、自分だけがそれを聞くのではもったいない。しかし、よく考えると、世の中には、自分が町内会長や自治会長になったときに、あるいは住宅地の運営に携わる羽目になったときに、参考にすべき教科書はない。それなら一層のこと、まちコン受賞団体が経験されてきた数々の知恵をテキストのようなものにして、たとえ明日、町会長の順番が回って来ようと、この一冊を読めば大丈夫、というようなものがつくれないだろうか、ということに思い至り、改めて10年分の受賞団体50組織に、聴き取り調査をお願いしてできたのが、本書である。
(紹介文執筆者: 工学系研究科 教授 大月 敏雄 / 2019)
本の目次
第一章 まちの構成と組織の運営
第二章 他の組織・人材との連携
第三章 情報共有
第四章 人々を巻き込む
第五章 活動の動機づけ
第六章 合意形成
第七章 安心安全
第八章 まちを美しく
第九章 公共私の境を超えた活動
第十章 まちなみのルールと計画
第二部 「住まいのまちなみコンクール」受賞団体の活動
附・「住宅地のマネジメント」のために知っておきたい用語