東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙の真ん中に青いモザイクの模様

書籍名

シリーズ精神医学の哲学 1 [全3巻] 精神医学の科学と哲学

著者名

石原 孝二、 信原 幸弘、糸川 昌成

判型など

240ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2016年8月29日

ISBN コード

978-4-13-014181-9

出版社

東京大学出版会

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精神医学の科学と哲学

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本書はシリーズ「精神医学の哲学」(全3巻) の第1巻として出版されたものである。シリーズ「精神医学の哲学」は、科研費プロジェクト「精神医学の科学哲学:精神疾患概念の再検討」(JSPS24300293) の一環として企画され、第1巻『精神医学の科学と哲学』(石原孝二・信原幸弘・糸川昌成編)、第2巻『精神医学の歴史と人類学』(鈴木晃仁・北中淳子編)、第3巻『精神医学と当事者』(石原孝二・河野哲也・向谷地生良編) として出版された。英語文献では、精神医学の哲学 (Philosophy of Psychiatry) は数多くの書籍が出版され、特にオックスフォード大学出版局のシリーズInternational Perspectives in Philosophy and Psychiatryはすでに50冊以上が出版されている。日本では特に現象学的な精神病理学に関する書籍や、精神分析と哲学との関係に関する書籍などは多く出版されてきたが、『精神医学と哲学の出会い』(中山・信原幸弘編、玉川大学出版会、2013年) などを除いて、精神医学そのものを哲学的に扱うものはほとんど出版されてこなかった。翻訳書以外で「精神医学の哲学」そのものをテーマとし、タイトルとした書籍・シリーズが日本で出版されたのは、筆者が知る限り、これが初めてである。
 
シリーズ名の「精神医学の哲学」は、精神医学の知や実践をメタな視点から問い直すことを指している。第2巻の執筆陣は、歴史家と人類学者が中心であり、第3巻の執筆陣は、精神医学にかかわる研究者や哲学者、そして当事者研究の展開にかかわってきた人たちが中心となった。他方、本書第1巻は、精神医学に関心をもつ哲学者と哲学や精神医学の基礎理論に関心をもつ精神科医が執筆している。
 
本書は総論 (第1章) と第一部 (第2章~4章)、第二部 (第5章~9章) に分かれている。総論 (石原孝二)では、精神障害 (疾患) の概念や診断基準が検討され、現象学、精神分析、科学哲学、心の哲学などの精神医学に対する様々なアプローチなどが整理される。第2章 (信原幸弘) では、「思考吹入」が取り上げられ、思考の「所有者性」についての哲学的な考察が展開される。第3章 (宮園健吾) では妄想の「二要因理論」と「予測エラー理論」が取り上げられ、両者の基本的なアイデアを組み合わせたハイブリッド理論が可能であることが示される。第4章 (トーマス・フックス) は当該領域の代表的な研究者の一人である著者が現象学的精神病理学についてまとめた論稿の翻訳である。第5章 (立木康介) では、精神分析と精神医学の関係について整理されるとともに、精神分析とはどのような実践であるのかが検討されている。第6章から第9章までの第二部は、精神科医による論稿である。第6章 (糸川昌成) では、分子生物学的研究の歴史などを踏まえながら、統合失調症の概念の再検討が行われている。第7章 (黒木俊秀) は、向精神薬の開発 (発見) の歴史や新薬開発の行き詰まりなどを踏まえて、精神病理学を包括的に考察することを試みている。第8章 (石垣琢麿) は、認知行動療法の概要が紹介されるとともに、精神病 (サイコーシス) への適用可能性が検討されている。第9章 (村井俊哉) ではヤスパースの多元主義や生物・心理・社会モデルに対するガミーの批判などを踏まえて、精神科医療における価値的な多元主義が提唱されている。
 
精神医学の哲学は、海外で多数の書籍が出版されていることからも窺えるように、広大な領域を含むものである。本書は、その広大な領域への参入の、日本における端緒となることを目指したものである。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 石原 孝二 / 2018)

本の目次

第1章 総論――精神医学の科学と哲学 (石原孝二)

第1部 精神医学と哲学
第2章 思考吹入と所有者性 (信原幸弘)
第3章 妄想の形成と維持――二要因理論と予測エラー理論 (宮園健吾)
第4章 現象学と精神病理学 (トーマス・フックス/田中彰吾訳)
第5章 精神分析の実践と思想 (立木康介)

第2部 精神医学の科学論
第6章 症候群としての統合失調症――生物学的研究からの再検討 (糸川昌成)
第7章 ポストモノアミン時代の精神薬理学――シニシズムを超えて (黒木俊秀)
第8章 認知行動療法の基礎と展開 (石垣琢麿)
第9章 生物・心理・社会モデルの折衷主義を超えて――ガミーの多元主義とヤスパースの方法論的自覚 (村井俊哉)
 

関連情報

書評:
榊原英輔 評 (『科学基礎論学会』Vol. 45, No. 1&2 (2018): 69-10)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kisoron/45/1-2/45_69/_pdf/-char/ja
 
書籍紹介:
斎藤 環 (精神科医、筑波大学教授)「2016この三冊 (上)」 (毎日新聞 2016年12月11日)
 

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