東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

黄色い表紙に教師たちのイラスト

書籍名

教師のための「なりたい教師」になれる本! TPチャートでクラスも授業改善もうまくいく!

著者名

栗田 佳代子、 吉田 塁、大野 智久

判型など

144ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2018年2月17日

ISBN コード

9784313653429

出版社

学陽書房

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本書は小学校や中学校、高校の先生に向けて書かれた本です。『「なりたい教師」になれる』ためのツールとして、副題にある「TPチャート」の意義や作成方法および実際にTPチャートを作成された先生の教育活動の変化と、TPチャート作成の研修の開催方法を所収しています。
 
TPチャートとはティーチング・ポートフォリオ・チャートの略です。この名称にあるティーチング・ポートフォリオ (TP) とは、教員が自らの教育業績の可視化と教育活動の振り返り (リフレクション) を目的として作成する文書です。欧米では、大学教員が採用や昇進時に教育業績評価の資料として、あるいは教育活動の改善のために用いており、日本でも普及の途上にあります。そして、TPチャートは、このTPの機能であるリフレクションのプロセスを容易にたどれるよう構造化したものです。
 
もともとTPチャートは、TPの理解を目的とした大学教員の研修のために、著者の1人が開発しました。TP理解のためにはリフレクションの価値を知ることが第一ですが、説明のみではわかりにくいため、リフレクションを簡単に短い時間で体験してもらいたい、というねらいでTPチャートが誕生しました。やがて、TPチャート作成によるリフレクションにも十分な意義が見いだされ、TPチャートの作成のニーズが小中高校の先生にも広がるところとなり、本書の発刊につながりました。
 
TPチャート自体が「なりたい教師像」を直接示すわけではありません。しかし、作成者はTPチャートに日頃の活動を書き出し、その背後にある理由を振り返って考えていき、順次TPチャートの空欄に書き込むことで、次第に自分が大切にしていること、つまり、生徒にどのように育ってほしいのか、自分はどうありたいのか、などを自分で見出していきます。これらが自分の教育理念―なりたい教師像―となるのです。そして、見出した自分の教育理念と日々の教育実践との関係を整理し直すことで、不足していることに気づき、それらが次の活動の目標として書き出されていきます。そのようにして作り出されたTPチャートを改めて全体を見通すことで、自分が取り組んできたことについて一貫性をもって俯瞰でき、自己の教育活動に自信を持てるようにもなります。
 
現代は良い教育を実現するための具体的な方法や考え方の情報が巷にあふれ、ともするとその情報の多さに、教師は右往左往することも少なくありません。また、一方で、日々の教育課題の解決に追われて手一杯となり、本来もつべき育てたい生徒像、自らがなりたい教師像を見失っていることも多々あります。そうした先生方が、少し立ち止まり、自分の教育理念にあらためて気づき、自信をもって方法を選び取り、目の前の生徒に向き合って教育に携わってもらうために、ぜひ読んでもらいたいと思っています。本書にある事例紹介にふれていただくことでTPチャートを作成された先生の授業実践がどのように変わったのかを具体的に知ることができます。
 
本書はひとりでも作成ができるように、この作成の方法や見直しの方法がステップごとに解説されています。ただし、現場の教育は一人の教師でなし得るものでもありません。教員がチームとして取り組むことが求められている今だからこそ、この本を同僚の先生たちとともにお読みいただき、対話を重ねながらTPチャートを作成することで、互いの持ち味を生かし合う“チーム教員”の形成にも寄与できると確信しています。本書の後半にはTPチャート研修の実施方法についても丁寧に解説しています。
 
冒頭に小中高校の先生を読者の対象とすると書きましたが、このTPチャート作成の実践を通して私たちが気づいたことは、TPチャートは教育活動だけでなく、自分の生き方やあり方を見直すための枠組みとしても有効だということです。「自分が大切にしていること」を見出すためのツールに関心のある人にもおすすめします。

 

(紹介文執筆者: 大学総合教育研究センター 准教授 栗田 佳代子 / 2020)

本の目次

第1章  1枚のシートによる振り返りで授業がクラスがこんなに変わる!
TPチャートはすごい!
「自分らしい」授業ができるようになった!
「生徒が学びの主人公」の授業が見えてきた!
TPチャートで「矛盾」を可視化し授業改善できた!
「このチャート1枚で5年はがんばれる!」と実感!
コラム TPチャート作成ワークショップに参加した先生たちの感想
 
第2章  TPチャートをつくってみよう!
TPチャートを知ろう!
TPチャートを作る準備をしよう!
完成したTPチャートはこんな感じです!
TPチャートを作る流れを知ろう!
基本情報、作成の目的、教育活動を書き出してみよう!
改善・努力を書き出してみよう!
成果・評価を書き出してみよう!
方法を書き出してみよう!
方針を書き出してみよう!
理念を書き出してみよう!
理念・方針・方法が対応づいているか確認しよう!
エビデンス (根拠) を書き出してみよう!
目標を書き出してみよう!
TPチャート作成の感想を書き出してみよう!
コラム TPチャートの誕生の背景
 
第3章  作ったTPチャートを見直してみよう!
作ったTPチャートを見直す
理念のチェック (1) その理念は本当に理念ですか?
理念のチェック (2) その理念は方針に対応づけられますか?
理念のチェック (3) 理念同氏の関係を説明できますか?
理念と方針のチェック (1) その方針で理念を実現できますか?
理念と方針のチェック (2) その方針は理念とどう関係していますか?
コラム 理念と方針の見直しのポイント
 
第4章  TPチャートで授業が生徒がこんなに変わった!
TPチャート作成で「なりたい自分」が見えてきた!
TPチャート作成で授業設計が変わった!
TPチャート作成によって、自分の目指していることがはっきりした!
コラム ティーチング・ポートフォリオとは?
 
第5章  TPチャートを使うと研修・勉強会もこんなに変わる!
研修・勉強会にTPチャートを活用する
研修・勉強会の構成
TPチャートを作成する
TOチャートを見直す
TPチャートを授業改善につなげる
コラム 学習指導要領とTPチャート
 
第6章  こんなことに困ったら? TPチャートQ&A
TPチャートについて
TPチャートの作り方について
ワークショップの実施・運営について
 
TPチャート
参考情報
あとがきにかえて~TPチャートがこれからの教育を変える~
 

関連情報

TPチャート作成のための動画 (Kayoko Kurita Labホームページ 2020年7月28日)
https://kayokokurita.info/post-578-2.html
 
書評:
教師のための 「なりたい教師」になれる本! (教育新聞 2018年4月2日)
https://www.kyobun.co.jp/book-reviews/r20180402_06/

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