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書籍名

全仕事

著者名

隈 研吾

判型など

352ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2022年6月16日

ISBN コード

9784479393900

出版社

大和書房

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全仕事

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建築家は、建築を設計するという仕事から卒業しつつあると僕は感じている。僕自身が卒業しつつあるだけではなく、建築家という職能が、建築物という「物体」を設計し図面をかく仕事から、撤退しつつあるし、撤退しなければならないと思うのである。
 
20世紀という工業社会、高度成長期には「物体」の生産が社会をまわすための重要な役割になっていたが、21世紀の今となっては、「物体」の生産は環境を破壊するだけの、迷惑きわまりない行為であるかもしれないからである。それよりは、もっと別の形で、都市や建築に対する考え方を伝えた方がいいのではないか。その方が、メッセージが人に強く伝わるのではないかと考えたのである。実際に僕の人生を振り返ってみると、「物体」の設計以外の仕事が、大きな割合を占めていたことが見えてきた。たとえば本を書くという作業にかなりの時間を割いていて、何10冊という本を出版したし、その多くは英語、中国語、韓国語に翻訳されている。本を書くと、自分の考え方が整理されるし、これから何を作ったらいいか、都市をどう考えればいいかも見えてくる。「建築は長持ちしていいですね。僕ら物書きが書いたものなんかすぐ忘れられます」と某作家にいわれたこともあるが、実際には「物体」の寿命は限られていて、テキストの方がずっと長持ちするとも考えられるのである。
 
大きな「物体」のかわりに、小さなパビリオンやインスタレーションをデザインする作業も、僕の人生の中で大きな割合をしめていた。大きな「物体」は、様々な経済や人の欲望、思惑がからみあう場で、デザインの自由度は想像以上に低い。パビリオンやインスタレーションなどの「小物体」は、そのようなしがらみが少ないので、自分の創造したいものを、シンプルに素直にみせることができ、世界に対してメッセージを発信することができるのである。
 
そういう見地に立って、僕の人生をとりあえず総括してみたのが、この「全仕事」という本である。その結果、大物体、小物体、著作の領域がからみあい、影響しあっている様子がよく見えてきて、とても興味深いものとなった。この3つの領域から構成される「三輪車」が僕をしっかりささえて、たおれないようにしている様子も見えた。一輪車より、三輪車の方が安定するのである。著作や「小物体」は景気にも経済にも、あまり影響を受けずに進められるので、何があるかわからない今の時代にも、前向きでいられるかもしれない。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 / 特別教授室 特別教授・名誉教授 隈 研吾 / 2022)

本の目次

前書き
境界建築家/田舎と世界がネットでつながる/三輪車
 
全仕事
 
[第I期|1986─1991]
キリスト教とハチャメチャ/境界人と反禁欲主義/装飾ではなくボロさ/ボロい幾何学
 
[自撰55作品|01─03]
01|10宅論/02|伊豆の風呂小屋/03|M2
 
[第II期|1992─2000]
建築は罪悪である/建築の消去/消去から庭へ/デジタルで形態ではなく、体験をつくる/タウトから関係と物質を教わる/ニューヨークで日本に出会う/バブル崩壊で小さな場所と出会う/梼原で職人と直接話す/東北で屋外にめざめる/ローコストこそ建築のテーマ
 
[自撰55作品|04─13]
04|亀老山展望台/05|オートマチック・ガーデン/06|水/ガラス/07|ベネチア・ビエンナーレ95 日本館会場構成/08|森舞台/宮城県登米町伝統芸能伝承館/09|2005年日本国際博覧会基本構想/10|北上川・運河交流館 水の洞窟/11|那珂川町馬頭広重美術館/12|石の美術館/13|反オブジェクト
 
[第III期|2001─2015]
木の建築で大きな場所とつながる/中国でノイズにめざめる/冷戦建築から米中対立建築へ/捨てた猫を取り戻す/孔を開けて生命を吹き込む
 
[自撰55作品|14─41]
14|竹屋/15|One表参道/16|負ける建築/17|村井正誠記念美術館/18|織部の茶室/19|Lotus House/20|Krug×Kuma/21|ちょっ蔵広場/22|Tee Haus/23|カサ・アンブレラ/24|Water Branch House/25|根津美術館/26|GCプロソミュージアム・リサーチセンター/27|Glass/Wood House/28|セラミッククラウド/29|梼原 木橋ミュージアム/30|Memu Meadows/31|スターバックスコーヒー 太宰府天満宮表参道店/32|アオーレ長岡/33|浅草文化観光センター/34|800年後の方丈庵/35|マルセイユ現代美術センター/36|ブザンソン芸術文化センター/37|歌舞伎座/38|サニーヒルズジャパン/39|ダリウス・ミヨー音楽院/40|東京大学大学院 情報学環 ダイワユビキタス学術研究館/41|中国美術学院民芸博物館
 
[第IV期|2016─2022]
方法の発見/青山と森/切断でなく関係と継続/木という方法/粒子から量子へ/コーポラティブハウスからシェアハウスへ/アトリエからラボへ/グラフィック、ランドスケープ、ファブリック/田舎のネットワーク
 
[自撰55作品|42─55]
42|住箱/43|ポートランド日本庭園 カルチュラル・ヴィレッジ/44|V&A Dundee/45|The Exchange/46|明治神宮ミュージアム/47|国立競技場/48|点・線・面/49|高輪ゲートウェイ駅/50|ところざわサクラタウン 角川武蔵野ミュージアム・武蔵野坐令和神社/51|東京工業大学Hisao & Hiroko Taki Plaza/52|村上春樹ライブラリー/53|グリーナブルヒルゼン/54|境町の「小さな建築」の街づくり/55|南三陸町の復興プロジェクト
 
後書き
クレジット

関連情報

書籍紹介:
「1986年から2022年まで。建築家・隈研吾さんのすべてを振り返る大著『全仕事』」(『家庭画報』 2022年10月号/家庭画報.com 2022年10月6日)
https://www.kateigaho.com/migaku/art/148606/

「今月のブレーン編集部おすすめの本」 (『ブレーン』 2022年9月号)
https://mag.sendenkaigi.com/brain/202209/book-select/024701.php
 
「隈研吾 新刊『全仕事』―― 建築家・隈研吾を“変え続けた”55の建築から浮かび上がる挑戦の軌跡」 (TECTURE MAG 2022年6月26日)
https://mag.tecture.jp/culture/20220626-65341/
 
「大和書房から隈研吾の流儀 建築の最前線を掲載した渾身の一冊『全仕事』が発売」 (ADF web magazine 2022年6月23日)
https://www.adfwebmagazine.jp/architect/daiwa-shobo-releases-zenjigyo-all-work-a-book-of-kengo-kumas-style-which-covers-the-forefront-of-architecture/

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