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書籍名

クマラボイントウホク KENGO KUMA LAB IN TOHOKU

判型など

304ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2018年7月20日

ISBN コード

978-4-13-061137-4

出版社

東京大学出版会

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学内図書館貸出状況(OPAC)

クマラボイントウホク

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3.11の後で、自分が東北に設計した建物がどうなっているかが心配で、分断された道路で車を走らせて、なんとか、仙台、南三陸、石巻にたどりついた。そこで目にしたものは、今でも心の底の方の部分で鳴り響いている。
 
若い学生達にも、災害というものがどういうものか、人間というものがいかに脆いものであるか、あるいは人間が築き上げてきた社会とか建築というものが、いかにはかないものであるかを知ってもらいたくて、東北に何回も連れていった。
 
しかし、日本の学生は誘っても、手を挙げるものが少ない。一方、海外からの留学生は、目を輝かせて東北での研修を楽しみ、いろいろな質問もぶつけてきた。
 
その研修の様子、成果を一冊にまとめてみたのがこの本で、学生達が被災地に提案した様々なプロジェクトの絵も載せてある。福島、南三陸、南相馬などの、かなりデリケートな敷地を選んで、そこに学生達に自由に提案をしてもらった。デリケートということもあり、また当然復興となると予算に対しても、厳しい目で見られるであろう。「デザイナーの遊びに、なんでそんなお金を掛ける必要があるんだ!」という叱責が聞こえてきそうであった。そんな条件にもかかわらず、学生達の提案は、かなりぶっとんでいた。興味深いものが多かった。「大人達」の復興プロジェクトが、僕が南三陸や陸前高田に提案したものも含めて、様々なものへの配慮のしすぎが感じられるのに対し、学生──とくに海外からの学生の作品──は、復興というものへのスタンスが、大人とは違っているようにも感じられた。復興プロジェクトは、そのくらいに思い切りのいいものの方が、長い眼で見てみると、歴史に刻印されるものになったかもしれない。そういった提案の方が、地域を明るくし、人々に希望を与えるものになりえたかもしれない。災害国日本に必要なのは、深刻にならずに、それをクリエイティブに乗り切っていくたくましさなのである。丹下健三設計の広島平和記念公園の建築は、そんな創造性があった。自分のプロジェクトへの反省も含めて、今はそんなふうに感じている。
 
中でも印象深かったのは福島の、立入り禁止の地域を訪れた時のことである。立入り禁止とオカミにいわれても、耕作地を一度放棄してしまったら、その土地は原野に戻ってしまうといって、日中だけ自分の畑に戻って──もちろんそれを出荷することは許されないにもかかわらず──耕作を続けている根本さんの家を訪れ、彼の土地に対する熱い想いを、しんとした座敷に座って、みんなで聞き入った時の光景は、今でも忘れられない。
 

 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 教授 隈 研吾 / 2020)

本の目次

【エッセイ】
倫理を超えて、FUKUSHIMA を考える(隈 研吾)
東北と復興(津田大介)
南相馬、福島(あるいは東北)をこれからどうしたらよいか:「暮らす」と「ズラす」(開沼 博)
福島の原発被災地域における空間計画(窪田亜矢)
残されたものの顛末(ソフィ・ウダール)
「東北、そして福島のこれから」を考える(山本俊一)
遠い未来と遠い過去に向かって(藤原徹平)
 
【スタジオ】
2013 フクシマを変えるケンチク 
 自然の中に漂う居住装置
 海と暮らす、防潮堤ランドスケープ
 被災した常磐線を高架化する
 ただ一人富岡に残った男のための、新しいエネルギーの家
 帰宅困難地域とセーフゾーンの境界線
 遺構の上の仮設のハコ
 成長するコミュニティ
 農家ネットワークの復興拠点 
 
2014 南三陸の復興広場 
 嵩上げした土地に、過去の区割りを重ね合う
 物語を伝承するランドスケープ
 高台と海をつなぐスリットを街に挿入する
 出会いの起きる路地をつくる
 盛り場の復興
 桟橋の上のパブリックスペース
 構造物と自然のあいだ 
 
2015 南相馬の復興拠点 
 野馬追センターを拠点にした地域復興
 地域に残る文化施設の再生
 祭りと公共施設
 土地の境界線を、可変にする
 永続的な住居システム
 空き家を公共空間へ転用するプラットフォーム
 漁師の塔
 バイオマス発電所の見える化
 地域を活性化する6次産業センター
 実験的教育のための7+1 のレイヤー
 竹と電柱と街の灯り
 風景を消さない防潮堤
 野生動物のための建築 
 
2017 小高への帰還 
 橋と駅とランドスケープ
 可変的なキオスクが作るプラグインシティ
 街を照らすヘッドライトとしての建築
 空き地のプレイグラウンド
 交換可能なファブラボユニット
 次世代流通を担うドローンタワー
 

関連情報

著者インタビュー:
建築家・隈研吾教授が振り返る東大での教員生活【退職記念インタビュー前編】 (東大新聞オンライン 2020年5月25日)
https://www.todaishimbun.org/kuma_kengo20200525/

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