東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙、漢字で大きく点、線、面のタイポグラフィー

書籍名

点・線・面

著者名

隈 研吾

判型など

214ページ、四六判、上製

言語

日本語

発行年月日

2020年2月7日

ISBN コード

9784000240604

出版社

岩波書店

出版社URL

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点・線・面

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ニュートン力学もアインシュタインも超えた、量子力学に対応する建築論を書いてみようと考えた。きっかけをくれたのは、アインシュタインとコルビュジエの友情関係であった。20世紀のモダニズム建築のリーダーであったル・コルビュジエは、代表作サヴォア邸に大物理学者を案内して、自分の建築とアインシュタインの物理学とは相似形であるというキャンペーンをはろうとした。同じスイス人の建築史家ギーディオンもこのキャンペーンに便乗して、『空間・時間・建築』(1941) を書いて、「コルビュジエは空間と時間の境界を超えた」と絶賛したが、僕はこのキャンペーンを読んで、コルビュジエは大昔のニュートンの時間概念にとどまっていることに失望した。ニュートンにとって時間と運動はつながっていた。時間とは空間の中の物の運動のパラメーターであった。このニュートンの古典的退屈さが、コルビュジエの原点であり、それがモダニズム建築の非人間性の原点である。
 
そのニュートン的時間概念を超え、一気にアインシュタインの限界もとびこえたいと考えて、この本を書いた。アインシュタインの限界とは、彼が物理法則の絶対性を信じていたことである。彼は時間と空間との境界をとっぱらって、新しい物理法則を提示したが、法則の絶対性、普遍性については、みじんも疑わなかった。あらゆる物理法則は、ある限定的な範囲でのみ有効であるという考え方を、新しい物理学においては有効理論と呼ぶ。アインシュタイン後の量子力学と呼ばれる新しい物理学の中で、その考え方が生まれ、物理学という構造自体が解体された。東大でも教鞭をとっている大栗博司先生から、超弦理論をはじめとするアインシュタイン以降の新しい物理学のヒントをもらった。
 
建築や都市などの実空間においても、有効理論的に考えられないだろうか、有効理論で、建築学、都市計画学を解体できないかというのが、この本を通じて僕が訴えたかったことである。その試みは、コロナによってもたらされるであろう。コロナ後の僕らは、有効理論によって、だましだまし生きていくことになるであろう。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 / 特別教授室 特別教授・名誉教授 隈 研吾 / 2022)

本の目次

はじめに
 
方法序説
20世紀はヴォリュームの時代/日本建築の線とミースの線/構成のカンディンスキーから粒子のギブソンへ/ギブソンと粒子/主知主義対ダダイズム/運動としての時間から、物質としての時間へ/足し算のデザインとしてのコンピュテーショナル・デザインへ/ブルーノ・ラトゥールと写真銃/建築と時間/運動から時間を開放する/カンディンスキーによる次元の超越と埋め込み/相対的な世界と有効理論/建築の拡大と重層/金融資本主義のXL建築/建築の膨張と新しい物理学/進化論から重層論へ/超弦理論と新しい建築/ドゥルーズと物質の相対性
 

大きな世界と小さな石ころ/ギリシャからローマへの転換/点の集合としてのシーグラム・ビル/石の美術館の点への挑戦/点からヴォリュームへのジャンプ/ブルネレスキの青い石/ブルネレスキの点の実験/帰納法の建築/ブルネレスキとトビケラ/液体で点をつなげる/メタボリズムと点/木よりも細い石/日本の瓦と中国の瓦/点の階層化とエイジング/自由な点としての三角形/松葉の原理の成長するTSUMIKI/千鳥という点/線路の砂利という自由な点/離散性と倹約とフレキシビリティ
 

コルビュジエのヴォリューム、ミースの線/丹下健三のずれた線/線からヴォリュームへと退化した日本建築/木の小屋からの出発/ガウディの線/点描画法/熱帯雨林の線/モダニズムの線と日本建築の線/伝統論争と縄文の太い線/移動する日本の木造の線/芯おさえと面おさえ/広重の夕立の細い線/夕立の建築/線の自由とV&A・ダンディ/生きている線と死んだ線/生と死の境をさまよう線/限りなく細いカーボン・ファイバーの線/富岡倉庫の絹のような線
 

リートフェル対クレルクト/ミース対リートフェルト/サハラで出会ったベドウィンの布/ゼンパー対ロジエ/フランクフルトの布の茶室/ライトの砂漠のテント/大樹町の布の家/災害から人を守るカサ・アンブレラ/フラー・ドームと建築の民主化/テンセグリティで地球を救う/細胞とテンセグリティ/800年後の方丈庵
 
おわりに
 
参考文献
図版出典一覧

関連情報

書評:
中川理 評「粒子から構想する建築造形」 (日本経済新聞 朝刊 2020年4月18日)
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO58179160X10C20A4MY6000/
 
『ダ・ヴィンチ』 2020年4月号
https://www.kadokawa.co.jp/product/321902000533/
 
『週刊朝日』 2020年4月3日号/AERA dot. 2020年3月30日
https://dot.asahi.com/ent/publication/reviews/2020033000059.html?page=1
 
速水健朗 評「ベストセラーで読み解く現代アメリカ、読者の共感から探る「今」(目利きが選ぶ3冊) 」 (日本経済新聞夕刊 2020年2月27日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56068730W0A220C2BE0P00/
 
インタビュー:
「隈研吾が語る、20世紀的な建築からの脱却 「新しい時間の捉え方が必要なのかも」」 (Real Sound 2020年5月13日)
https://realsound.jp/book/2020/05/post-551281.html
 
対談:
「「線」の建築をめざして ── 隈研吾×藤村龍至×東浩紀「ポストコロナの建築言語」イベントレポート」 (webゲンロン 2020年6月17日 [2020年6月12日ゲンロンカフェ開催イベントのレポート版])
https://www.genron-alpha.com/article20200617_01/
 
展覧会:
「隈研吾特別展 ―― 那珂川町馬頭広重美術館と隈研吾が求めた「点・線・面」の新しいあり方」 (那珂川町馬頭広重美術館 2021年7月20日~8月15日)

イベント:
「隈研吾特別講演会 浮世絵から点・線・面へ」 (東京都美術館 2020年9月7日)
https://academia.nikkei.co.jp/contents/26
 
「gallery IHA 2020 online lecture 01「ことばと建築」―― 隈研吾『点・線・面』」 (gallery IHA オンライン 2020年6月15日)
https://galleryiha.wixsite.com/galleryiha/event-45
▶イベントレポート

「隈研吾×藤村龍至×東浩紀 ポストコロナの建築言語 ── 隈研吾『点・線・面』から新しい空間論へ」 (ゲンロンカフェ オンライン [アーカイヴ視聴可] 2020年6月12日)
https://genron-cafe.jp/event/20200612/
 
「隈研吾「新しい建築のための方法序説」――『点・線・面』(岩波書店)刊行記念」 (COREDO室町 2020年3月19日 [開催延期])
http://www.eslitespectrum.jp/news/1d50887b-3de5-40b7-a02f-13b13d045486

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