隈研吾 鎌倉に「小さな英国アンティーク博物館」をつくる訳
大船の中学、高校 (正確には鎌倉市玉縄) に通っていたせいで、隣の鎌倉は、僕の遊び場であり、僕という人間を作ってくれた、大切な場所であった。日本の歴史も、教科書ではなく、鎌倉という場所から、直接的な形で、身体を媒介として、僕は学ぶことができた。鎌倉の地形は、そのまま歴史であり、僕の地形に対する関心も、鎌倉でめばえ、その後、僕の様々な建築が、ひとつの地形としてデザインされるきっかけとなった。坂倉準三先生の設計の旧神奈川県立近代美術館 (1951) は、僕のアートの先生であるだけでなく、八幡宮の境内の環境 (たとえば池の水面) とこのミュージアムの、大胆ともいえるダイアログは、僕が建築で水を使う時のひとつのモデルとなった。
だから、その鎌倉の地に、しかも思い出の八幡宮の段葛沿いに、イギリスのアンティークをテーマとする美術館をたてたいという依頼を受けた時は、興奮した。あの鎌倉に何等かの形で、恩返しができればと考えたからである。
敷地の隣に、鎌倉彫会館があって、それは偶然のようでありながら、必然のようでもあり、鎌倉彫の、刃跡にきざまれた武士の美学を、建築に写しとりたいと考えた。鎌倉は日本で最初の武士政権によって創造された街であり、既製の京都中心のシステムにしばられまいとする武士のチャレンジ精神が、鎌倉彫のシャープで残酷な刃跡を通じて、いまだに僕らの心を打つのである。
この武士の精神は、ある意味ではイギリスにも通じるものであることを、スコットランドの仕事を通じて、僕は感じることができた。イギリスは伝統を重んじる保守の国といわれるが、実際には、ヨーロッパの中心であったローマあるいはパリに対する挑戦が、イギリスという国の文化を作ってきた。産業革命の合理主義も、そんな形で、ローマやパリといった京都的なるものに対し、イギリスは鎌倉として闘い、いどみ続けてきたのである。
そのような歴史的フレームを頭の片隅に置きながら、BAMをデザインするのは、とても楽しい経験であった。たぐいまれな情熱をもつコレクターの土橋正臣のエネルギーも、ある意味で鎌倉的であり、イギリス的であって、それは、ノスタルジーとか、骨董とかいうものとは、対極的なものとすら感じられたのである。
(紹介文執筆者: 工学系研究科 / 特別教授室 特別教授・名誉教授 隈 研吾 / 2023)
本の目次
・鎌倉―英国 アンティーク博物館 隈研吾
・対談 (隈研吾×土橋正臣) 過去と未来を繋ぐ建築
【Chapter 2】BAM建築とは、最新技術を施した鎌倉彫のファサードによる木質化
・土地の話、ファサードと鎌倉彫、家具職人の技術
・シンプルな3つの文字に込められた伝統と新しさ
・KENGO KUMAデザインの茶室
【Chapter 3】ようこそ、英国のアンティーク博物館「BAM鎌倉」へ、各フロア解説
・1st Floor ヴィンテージフロア
・2nd Floor ジョージアンルーム アンティークシルバーの歴史、ハープ
・3rd Floor シャーロック・ホームズの部屋
・4th Floor ヴィクトリアフロア 英国女王の作り上げた繁栄の歴史
関連情報
https://kkaa.co.jp/project/british-antique-museum-bam-kamakura/
英国アンティーク博物館「BAM鎌倉」公式ホームページ
https://www.bam-kamakura.com/
書籍紹介:
「隈研吾氏監修、書籍『隈研吾 鎌倉に小さな英国アンティーク博物館をつくる訳』を出版しました! 博物館オープン出版記念のプレス会見動画を初公開!」 (株式会社ファーマブリッジ 2022年10月20日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000101764.html
インタビュー:
[動画]「隈研吾スペシャルインタビュー『英国アンティーク博物館BAM鎌倉』を語る! Interviewer:館長 土橋正臣」 (英国アンティーク博物館「BAM鎌倉」| YouTube 2022年7月7日)
https://www.youtube.com/watch?v=miFYgwFFvOk
関連イベント:
[動画] 第1回BAMアカデミー「建築家 隈研吾氏によるトーク&出版記念イベント~特別サイン会」 (英国アンティーク博物館「BAM鎌倉」 2022年12月4日)
https://www.bam-kamakura.com/event/267
[動画]「出版記念 英国アンティーク博物館 [BAM鎌倉] プレス会見」 (英国アンティーク博物館「BAM鎌倉」| YouTube 2022年9月17日)
https://www.youtube.com/watch?v=hPgHoZEyapo
建築紹介:
「隈研吾が手がける英国アンティーク博物館【BAM鎌倉】2022年9月23日オープン! 完成イメージを発表」 (株式会社ファーマブリッジ 2022年8月4日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000101764.html
「隈研吾氏が手がけた英国アンティーク博物館《BAM 鎌倉》――次世代にアンティークの世界を発信」 (Discover Japan 2022年4月14日)
https://discoverjapan-web.com/article/87334