東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

著者2人の人物画

書籍名

日本人はどう住まうべきか?

著者名

養老 孟司、 隈 研吾

判型など

205ページ、文庫

言語

日本語

発行年月日

2016年1月1日

ISBN コード

978-4-10-130841-8

出版社

新潮社 (新潮文庫)

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日本人はどう住まうべきか?

その他

日経BP社 2012年刊の再刊

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養老孟司先生は、僕の出た栄光学園中学校・高等学校の先輩であり、最も尊敬し、また影響を受けた思想家のひとりである。その先生と「住む」ことをテーマにして対談したものをまとめて、この本になった。
 
住むことについて、あるいは家についてのヒントをもらえる本かと思うとまったく逆で、家を作ったり、持とうとしたりするのは馬鹿馬鹿しい。家なんか新しく作ろうとせず、気ままに、気楽に、だましだまし、流されて生きなさいというアドバイスが、本の全体の基調低音となっている。
 
建築家が言うのも変かもしれないが、新しく建築を建てたり、家を建てたりすることは、ひどく恥ずかしいことだと思っている。「計画する」という行為自体が、ひどく恥ずかしいことなのだと言い換えてもいい。なぜなら、建築というものは、それを使ったり、そこに住んだりする人々を「定義」してしまうものであり、養老先生も僕も、人間というのは、そんなに簡単に──特に建築家ごときに──「定義」できてしまうほどに、シンプルなものではなく、とてつもなく複雑で、ひねくれて、厄介なものだと考えているからである。養老先生は無数の人間の身体を解剖し、無数の死と向き合うことで、そのような認識を持つに到ったのではないかと僕は推測している。
 
養老先生と僕が卒業した栄光学園の教育も、このような人間観と関係がある。
 
栄光学園はカトリックのイエズス会の経営する学校であり、海外から布教にやってきた神父達が、教育の中心を担っていた。イエズス会という修道会は、ルターの宗教改革に対するカトリック側の反対攻勢、いわゆる反宗教改革 (カウンターリフォーメーション) の中心的存在であった。ルター達のプロテスタンティズムを、頭でっかちの観念論として批判したのが、イエズス会であった。観念のかわりに、肉体を重視した、一種の体育会系カトリックがイエズス会であったと言ってもいい。頭だけで人間を定義したり、神を定義したりすると、間違いを犯しやすいと僕らは教えられ、身体を鍛えろ、メンス・サーナ・イン・コルポレ・サーノ (健全な精神は健全な体に宿る) とたたきこまれ、真冬でも毎日、上半身裸になって、校庭で体操をさせられた。
 
このような反観念論的な空気が、養老先生と僕を作ったような気がする。養老先生と僕は、この本でコラボしたあと、ひとつのモニュメント作りでコラボした。鎌倉の建長寺境内にある「虫塚」というそのモニュメントは、養老先生が採集した虫の霊を鎮めるためのものであるが、通常のモニュメントのような、重厚な形態をとらず、虫カゴのような透明で頼りない作りとなっている。二人に共通の人間観、人間ははかないという観察が、このようなモニュメントを生み出した。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 教授 隈 研吾 / 2020)

本の目次

まえがき 養老孟司
 
第1章 「だましだまし」の知恵
津波はノーマークだった建築業界
死語になった「国家百年の計」
ルーズだからこそ安全基準は高くなる
買い手に土地を検討されたら困る
原発問題も土建問題も戦争のツケ
 
第2章 原理主義に行かない勇気
コンクリートは「詐欺」に似ている
コンビニ型建築をひねり出したコルビュジエ
ファッションで買われていく高層マンション
簡単には解けない「システム問題」
アジアの都市は自然発生的
アメリカの真っ白な郊外と真っ黒な石油
「見えない建築」は偽善的
 
第3章 「ともだおれ」の思想
ベネチアの運河に手すりを付ける?
マンションに見るサラリーマン化の極北
「ともだおれ」を覚悟できるか
骨ぐらいは折ってみた方がよろしい
都市復興の具体は女性に委ねるべし
人間はどこにだって住める
 
第4章 適応力と笑いのワザ
家の「私有」から病いが始まる
販売者はマンションに住みたがらない
人間が家に適応すればいい
「リスクなんて読めないです」が本音
「最貧国」が世界の最先端になる
アメリカの奴隷でない都市づくり
 
第5章 経済観念という合理性
バーチャルな都市の異常な増殖
ボスが引いたつまらない線の重み
上手に負けるといいものができる
人間の頭がコンピューターを真似してしまう
モデルルームのCGはインチキ
デザインセンスとは経済観念のことだ
 
第6章 参勤交代のス丶メ
地上ではなく地下を見よう
「強度」と「絶対」が道を誤らせる
限界集落的な生き方も認めよう
スラムの方が断然面白い
災害復興にユートピア幻想は効かない
教育とは向かない人にあきらめてもらうこと
参勤交代のス丶メ
日本人はどう住まうべきか
あとがき 隈研吾
住まいを考えるということ 山極寿一

 

関連情報

注記:
日経BP社 2012年刊の再刊
https://www.nikkeibp.co.jp/atclpubmkt/book/12/P48890/
 
書評:
【書評】~『日本人はどう住まうべきか?』 (All About 住宅・不動産 2012年5月25日)
https://allabout.co.jp/gm/gc/394216/
 
書評「ほとんど何も変わらなかったのか」 (朝日新聞 2012年2月26日)
https://book.asahi.com/article/11637341

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