中国の画家、王伝峰と、台湾の家具デザイナー陳仁毅が、僕のデザインした空間の中に作品を置き、それを篠山紀信が写真に収めるという、珍しい形式の共同著作。偶然ともいえる友人関係がベースになっているので、王と陳と僕のアートが、必ずしも同じ方向を向いているとはいい難い。ところが、それが篠山という才能の手で写真に撮られ、さらに中島英樹というグラフィックデザイナーの手によって本という形式に収められると、何やら参加したアーティストがすべて同じ方向を向いているように、事後的に感じられてくるという不思議な体験であった。
僕が中国や台湾から多くの仕事を依頼され、また頻繫に出掛けていることが、この3人の偶然の出会いのきっかけとなった。さらに僕が中華圏でこのように仕事をたくさん依頼されることになったきっかけは、2002年に、万里の長城のすぐ脇に《Great (Bamboo) Wall》という小さな作品を設計したことにある。
その作品は、地元の竹を徹底的に使って作ったバラックにも見えるような建築で、当時の中国で流行していたバブリーな建築(派手な印象の見かけだけの建築群)への批判、皮肉を込めた建築であった。
そんな建築は中国では無視されると思っていたら、意外なことに大評判になり、北京オリンピックの公式CMフィルムにも使われ、オリンピック開会式でも映像が流れた。
中国の懐の深さを教えられる思いがして、中国のことが一気に好きになった。中国のある種の雑さ、多様性も受け入れようという気分になった。日本社会、日本文化の均一性よりはずっと刺激的に感じられ、その思いが最終的にこの本という形に結実したともいえる。
中国の建築技術、建築デザインはこの20年間で格段の進歩をとげた。20世紀をリードしたモダニズムデザインが、ヨーロッパ、アメリカ中心のデザインムーブメントであったのに対し、中国、日本、韓国の東アジアが、今後、世界のデザイン界のリーダーシップをとっていく可能性は大きい。環境という問題に対して、どのような解答を出せるかが、東アジアのデザイン界に突き付けられた課題である。この本のテーマにもなっている和(ハーモニー)が、単に美学の問題にとどまらずに、地球環境問題に対して、踏み込んだ答えが出せるかが問われている。
(紹介文執筆者: 工学系研究科 教授 隈 研吾 / 2020)
関連情報
ジャンル超え結び付く中日の芸術 (PEOPLE’S CHINA 2019年7月8日)
http://www.peoplechina.com.cn/zrjl/201907/t20190708_800172973.html