東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

青々とした庭に建てられた建物の写真

書籍名

Residential Masterpieces : 世界現代住宅全集 フィリップ・ジョンソン グラス・ハウス

著者名

隈 研吾 (文)、 二川 幸夫 (企画・撮影)、二川 由夫 (編)

判型など

76ページ、257x364mm

言語

日本語、英語

発行年月日

2015年7月24日

ISBN コード

978-4-87140-644-4

出版社

エーディーエー・エディタ・トーキョー

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書籍紹介ページ

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フィリップ・ジョンソン グラス・ハウス

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フィリップ・ジョンソン (1906-2005) という建築家のことは、気になって仕方がなかった。美しい作品をコツコツと作るというタイプではなく、時代の先を読みながら、時代の流れを転換させることを企て続けた人だったからである。そういう新しいタイプの建築家像を、ジョンソンは世界に示した。たとえば、若い建築家を何人か集めてきて、キャッチーなテーマで展覧会を企画するということを繰り返し、そのたびに建築史の流れを変え、新しいデザインのトレンドを生み出した。1932年にはニューヨークのMoMAで"Modern Architecture: International Exhibition"という展覧会を企画して、モダニズム建築と呼ばれるスタイルを、20世紀に定着させた。80年代のポストモダニズムのブームも、90年代のディコンストラクティビズムの流行も、すべてジョンソンによるプロデュースだと言われている。
 
そして本人の作風もそれに合わせてコロコロ変わるので、節操のない変節漢と批判されることも多かった。
 
彼がモダニズム建築をプッシュして、アメリカ建築を変えようとしていた時代の代表作が、コネティカットの森の中に建つこの自宅「グラス・ハウス」であり、僕はコロンビア大学留学中に、この家をジョンソン本人に案内してもらった記憶は、今でも鮮明である。ジョンソンは資産家の息子で、広大な敷地の中に、美術館や図書館などいくつも建築を作って、そこに人を呼ぶのが好きであった。
 
プロデューサーであり、建築コレクター (まさに建築自体を蒐集していた) でもあったという点で、20世紀のアメリカを象徴する存在であった。
 
コロンビアの留学から戻ってきて、僕は逆に、20世紀アメリカとは対極の途を歩きたいと考えるようになった。その意味で、あの時ジョンソンに出会ったことは、無駄ではなかったと思う。
 
後年、このグラス・ハウスから1.5kmほど離れたコネティカットの森の中に、僕自身がガラスの家をデザインするチャンスを得た。同じガラスを主材料とはしているが、ジョンソンとは対極的なものを目指しているうちに、ひとつの新しいスタイルを発見することができた。その家はガラスだけでなく木を多用していて、ジョンソンのガラスの家とは全く別の存在になった。縁側と似た中間領域も多用していて、日本の伝統建築の知恵をコネティカットの森の中に持ちこむことができた。その意味で再び、ジョンソンには深く感謝している。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 教授 隈 研吾 / 2020)

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