東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

階段で遊ぶ2人の子供の写真

書籍名

広場 Hiroba: All about "Public Spaces" in Japan

著者名

隈 研吾、 陣内 秀信 (監修)、鈴木 知之 (写真)

判型など

168ページ、B5判

言語

日本語、英語

発行年月日

2015年3月23日

ISBN コード

978-4-473-04014-5

出版社

淡交社

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広場

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「建築を作ろう」というより「広場を作ろう」という気持ちで、設計をはじめることが、僕の場合、とても多い。
 
代表的なものは、新潟県の長岡市役所──通称、アオーレ長岡──である。この時は、敷地の真ん中に主役としての広場を作って、市役所に必要な施設は、そのまわりを囲うように配置しているので、このアオーレ長岡を訪れた人は、広場だけは覚えていても、「建物はどんなだった?」という感じで、建築の印象がきわめて薄い。僕はそれでいいのだと思っている。
 
かつては、広場や庭が、建築同等に、あるいは建築以上に大事にされていた。建築が圧倒的な主役になったのは、20世紀のことである。20世紀に、建築というのが売買の対象だと考えられるようになり、ひとつの商品だと見なされるようになった。商品は、商品らしく振るまわなければならないということになって、建築を周辺の場から切断されたオブジェクトとしてデザインするやり方が広まった。このやり方のチャンピオンが、ピロティを使って建築を地面から切断することを主張した、ル・コルビュジエである。この方法、このスタンスが、20世紀の都市を決定的に破壊した。
 
しかし、いまこの流れが変わりつつある。商品を買うように、建築を買って私有することが、魅力を失いつつある。そんな考え方のことを「シェア」と呼ぶこともある。あるいは、co-workingとかco-livingという言葉も、そのような新しい考え方を、別の言い方で呼んだものである。
 
その時、建築に代わって広場や庭が、新しい主役として、浮上してくるのである。新しい流れのヒントになる本を作りたいと思って、この本をまとめた。アオーレ長岡をはじめとする、自分が設計した広場を解説した。正確に言うと、アオーレ長岡では広場という言葉を使わずに、土間という言葉を使った。広場というとヨーロッパの街の、石敷きの外部空間を想像してしまって、なにやら古き良き時代へのノスタルジーな感じに陥りやすいからである。日本には土間というすてきな言葉があって、ここは床も土を固めたもので、この方が現代の人間が求めるシェア的なゆるさにぴったりだと感じた。現代の広場のヒントは、日本の伝統の中にたくさん隠れている。だからこの本は、裏千家系の出版社、淡交社の出版なのである。

 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 教授 隈 研吾 / 2020)

本の目次

実体への回帰
隈研吾建築作品にみる「広場」(アオーレ長岡
la kagu
木挽町広場 (歌舞伎座)
マルセイユ現代美術センター ほか)
日本独自の広場、その多様性の検証
日本の広場事例集(金沢21世紀美術館
熊本駅東口駅前広場 (暫定形)
東急プラザ表参道原宿「おもはらの森」
録 museum ほか)
新たなパブリックスペースの復権
空間を超えた広場の在り方

 

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