東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙、本の上半分部分に明朝体の小さな文字で縦書きのタイトル

書籍名

美学のプラクティス

著者名

星野 太

判型など

232ページ、四六判、上製

言語

日本語

発行年月日

2021年12月

ISBN コード

978-4-8010-0615-7

出版社

水声社

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美学のプラクティス

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美学とは何か──この単純な問いに答えるのは、かならずしも容易ではない。もちろん、それに教科書的な定義を与えることはできる。美学とは、18世紀ドイツにおいて生まれた哲学的学科のひとつであり、それはもっぱら「美」「芸術」「感性」を対象とする学問領域のことである、と。しかしながら、そこでは次のような疑問が浮上してしかるべきである。すなわち、この「美」「芸術」「感性」という三つの対象は、なぜ、どのようにして、この「美学」というひとつの学問領域において重なり合うことになったのか。
 
本書を導くのは、そのような問いである。あるひとつの学問分野が、美や感性をめぐる抽象的思弁と、芸術をはじめとする具体的対象に「同時に」かかずらうということは、いかなる理由によって正当化されるのか。かつて政治哲学者のジャック・ランシエールが指摘したように、美学にはそのような疑念、ないし「居心地の悪さ」がつきまとう (Jacques Rancière, Malaise dans l’esthétique, Galilée, 2004)。たんなる思弁哲学でも芸術学でもなく、美学というこの不純な領域が維持されねばならないとしたら、それはいかなる理由によって可能なのか──わたしは、みずからの専門分野として「美学」を掲げるとき、そのような問いに苛まれないことはなかった。
 
本書は、そうした問いを抱えながら、およそ10年間にわたり書き継いできた文章を集めたものである。だが本書に対して、いわゆる「論文集」という言葉はふさわしくないかもしれない。本書に再録した9本のテクストには、学術的な媒体に加え、展覧会の冊子や図録に寄せたものも含まれる。結果、「感性的なもの」をめぐるごく抽象的な思弁から、現代美術を中心とする具体的な作品にいたるまで、本書が扱う問題はそれなりに広い範囲にまたがることになった。しかし、「美学」という不純な領域のみが可能にするこうしたスペクトラムのなかにこそ、わたしが考えるこの学問の最大のポテンシャルがある。それを、本書は体系的な「理論」ではなく、ひとつの「実践」として示したつもりである。
 
本書は「崇高」「関係」「生命」の三部構成からなる。このうち、わたしがもともと研究対象としていたのは美学における「崇高」の概念であり、その意味で第I部の内容は、博士論文を元にした『崇高の修辞学』(月曜社、2017年) のスピンオフに相当する。第II部の「関係」は、ニコラ・ブリオーやジャック・ランシエールといった理論家のテクストに取り組みつつ、現代美術の世界でここ20年ほどのあいだに耳目を集めた「リレーショナル・アート」や「ソーシャリー・エンゲイジド・アート」の理論的整理を試みたものである。第III部の「生命」は、ボリス・グロイスやグレアム・ハーマンの議論を補助線としつつ、芸術作品──ひいては事物一般──における非有機的な「生」のステータスについて論じたものである。
 
いずれにしても、本書ははじめから体系的な理論の構築をめざして書かれたものではない。本書に「プラクティス(実践)」というタイトルを冠したのは、ここに収録したテクストが、いずれもある特定の状況のなかで要請され、執筆されたものばかりだからである。ゆえにそれらは、あらかじめ何らかのプログラムにしたがった「セオリー(理論)」として構想されたものではない。本書における3つのトピックを入口として、現代の美学・芸術理論に何らかの関心を寄せてもらえれば、著者としてはこれにまさる喜びはない。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 星野 太 / 2022)

本の目次

序論 美学、この不純なる領域
 
I部 崇高
1 カタストロフと崇高
2 戦後アメリカ美術と「崇高」──ロバート・ローゼンブラムの戦略
3 感性的対象としての数──カント、宮島達男、池田亮司
 
II部 関係
4 ハイブリッドな関係性
5 ソーシャル・プラクティスをめぐる理論の現状──社会的転回、パフォーマンス的転回
6 リレーショナル・アートをめぐる不和──ジャック・ランシエールとニコラ・ブリオー
 
III部 生命
7 生成と消滅の秩序
8 生きているとはどういうことか──ボリス・グロイスにおける生の哲学
9 第一哲学としての美学──グレアム・ハーマンの存在論
 
初出一覧
あとがき

関連情報

書評:
山下通 評「「関係性の美学」を超えて、「美学=感性的なものの分有」こそが政治を可能にする」 (『図書新聞』第3547号 5面 2022年6月18日)
http://www.toshoshimbun.com/books_newspaper/shinbun_list.php?shinbunno=3547
 
河村彩 評「美術について、美術を通して考える」 (『美術手帖』1093号 p. 206 2022年4月)
https://bijutsutecho.com/magazine/series/s12/25439
 
福尾匠 評「感性化せよ (ただし知的に?) 」 (『群像』pp. 478-479 2022年4月号)
https://gunzo.kodansha.co.jp/60359/60516.html
 
武田宙也 評「美学と「非人間的なもの」への問い」 (『週刊読書人』第3434号 3面 2022年4月1日)
https://jinnet.dokushojin.com/products/3434-2022_04_01_pdf
 
書籍紹介:
「2022年上半期読書アンケート」 (『図書新聞』第3553号 3面 2022年7月30日)
http://www.toshoshimbun.com/books_newspaper/shinbun_list.php?shinbunno=3553
 
「2022年上半期の収穫から」 (『週刊読書人』第3449号 4-5面 2022年7月22日)
https://jinnet.dokushojin.com/products/3449-2022_07_22_pdf
 
「新刊紹介 星野太『美学のプラクティス』(村山雄紀) 」 (表象文化論学会『REPRE』第45号 2022年6月30日)
https://www.repre.org/repre/vol45/books/sole-author/hoshino/
 
「新刊コーナー 星野太『美学のプラクティス』(水声社)」 (『綴葉』p. 9 2022年5月10日)
https://www.s-coop.net/about_seikyo/public_relations/images/teiyo-407.pdf

刊行イベント:
『美学のプラクティス』(水声社) 刊行記念 星野太×佐々木敦 トークイベント「ことばと芸術、ことばの芸術」 (代官山 蔦屋書店/オンライン 2022年2月22日)
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/humanities/24544-1304390124.html
 
星野太『美学のプラクティス』刊行記念トークイベント&選書フェア「芸術/批評のポリティクス」[出演: 星野太、沢山遼] (NADiff a/p/a/r/t 2022年2月12日)
http://www.nadiff.com/?p=26675

著者対談:
「星野太×沢山遼「芸術/批評のポリティクス」対談。なぜ美術批評は困難なのか?」 (TOKYO ART BEAT [2022年2月12日開催の刊行イベントレポート] 2022年11月8日)
https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/talk-futoshihoshino-ryosawayama-202211

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