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緑の表紙

書籍名

ノモスとしての言語

著者名

大宮 勘一郎、 田中 愼 (編)

判型など

344ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2022年5月

ISBN コード

978-4-8234-1106-9

出版社

ひつじ書房

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ノモスとしての言語

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本書『ノモスとしての言語』は、ドイツ語に焦点を当て、「言語における規範性」という主題にさまざまな角度から取り組んでいく試みである。もとより言語は、自然 (ピュシス) と人為 (テーシス) が不可分に絡み合いながら形成されるが、このうち本書においては、規則、慣習、高次の規範など、言語における人為的法則すなわちノモスの側面に着目する。人為的法則は不易ではありえず、様々な要因で変容と更新を繰り返す宿命にあるが、むしろそうであればこそ、自然法則的な側面の記述だけでは捉えられない言語の本質を構成する。ノモスを構成する力が多方面に拡散し、その審級が著しく揺らいでいる21世紀においてその意義を問い直す意味は小さくない。本書は、「過去」と「現在」に大きく二分したアプローチをとり、サブテーマとして、第1部「近代ドイツにおける「国語」」(全6章)、第2部「現代におけるノモスの揺らぎ」(全6章) を設ける。第1部においては、「国語」という、洗練や彫琢を経て成立する規範的言語層の形成と変容に影響した思想や、社会的および物質的条件が、歴史的観点から考察される。フィヒテ、サヴィニー、ヤーコプ・グリムらによる「国語」理念の形成、ルターと官庁ドイツ語、ヤーコプ・ベーメ、ショッテルからハーマン、ヘルダーに至る言語思想の系譜、アウグスト・ヴィルヘルム・シュレーゲルの言語感性論、ハプスブルク帝国支配下のボヘミアにおける、ボルツァーノ、マウトナーらの関与した国語論争、書き言葉の物質的基盤たる文字メディアの書体の歴史が論じられる。第2部では、ドイツ語圏を中心とした現代社会の状況におけるノモスのさまざまな形とその揺らぎを扱う。ドイツ、オーストリア、スイスといったドイツ語圏の言語政策、ドイツ語系住民を擁するルクセンブルクの言語政策、EUの言語政策としての複言語主義、話し言葉の「使用標準」化プロセス、外国語の音声の文字転写の困難、規範自体に内在する自然性がテーマとされる。ノモスが社会の決まりごとや慣習に基づくものである以上、複雑化する現代社会においてノモスの概念もさまざまな変容を遂げることとなる。本書は、古代ギリシア以来論じられてきた、言語における「自然」と「人為」という問いかけを複層的に描き出していく試みである。同時にドイツ語学、ドイツ文学、ドイツ思想の魅力を伝えることも心がけて書かれており、この分野への入門書としても用立てていただきたい。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 大宮 勘一郎 / 2023)

本の目次

第1部 近代ドイツにおける「国語」
はじめに|大宮勘一郎
第1章 「国語」形成の一断面|大宮勘一郎
 コラム 「国語」の絆を解く
第2章 ドイツ語を「知的」にした官庁語の功罪――形式性、統一性、そして複合性|高田博行
第3章 〈自然〉の諸相――近世・近代ドイツ言語論における〈自然〉〈起源〉〈超越者〉の関係をめぐって|宮田眞治
 コラム ノヴァーリスと近世・近代言語論
第4章 アウグスト・ヴィルヘルム・シュレーゲルにおける言語の美学――リズム起源論から芸術の自然史へ|武田利勝
第5章 ボヘミアの「国語」とは?――ドイツ語とチェコ語の抗争の記録|川島隆
第6章 書体の「ノモス」―「ラテン文字」と「ドイツ文字」|遠藤浩介
 
第2部 現代におけるノモスの揺らぎ
はじめに|田中愼
第7章 ドイツ語圏の言語政策と実際――複雑化する標準変種の記述とノモスの揺らぎ|高橋秀彰
 コラム オーストリア標準変種の特徴
 コラム スイス標準変種の特徴
第8章 ルクセンブルクの言語政策――多言語社会とドイツ語|小川敦
 コラム ルクセンブルクからの移民
第9章 EUの多言語政策と欧州の複言語主義|清野智昭
 コラム 二言語併用地域アルザスへの遠足
第10章 「逸脱」から「使用標準」へ――話しことばの規則性の体系化をめぐって|杉田優子
 コラム デジタルメディアのドイツ語使用と規範
第11章 ピュシスとノモスの間の「うつし」|井出万秀
第12章 逸脱のピュシスー文法規則の逸脱に見られる自然性|田中愼
 コラム 普遍文法の系譜

関連情報

書評:
阿部美規 評 (『ドイツ文学論攷』第64号 2022年)
https://hsgm.exblog.jp/page/2/
 
小黒康正 評 (九州大学独文学研究室 2022年9月30日)
https://www2.lit.kyushu-u.ac.jp/~german/news.php?MODE=2

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