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緑の表紙、鮎の絵

書籍名

長良川のアユと河口堰 川と人の関係を結びなおす

判型など

232ページ

言語

日本語

発行年月日

2024年3月

ISBN コード

9784540231278

出版社

農山漁村文化協会

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長良川のアユと河口堰

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今日、SDGsや生物多様性といった言葉は、社会に広く知られるようになった。しかし私たちの便利で快適な生活を維持するために建設された構造物が、経済や社会の基盤である生物圏にどれだけの犠牲を強いてきたのか、実態はほとんど知られていない。人口減少がはっきりと見えてきた今、実態を多くの方々に知っていただき、過剰開発、過剰負担となっている構造物の運用を検証し、最適運用の可能性を探ることにより、生物圏と社会、経済のバランスが取れた未来を構想することが求められている。
 
このような問題意識のもと、本書では長良川の生物圏と河口堰を題材とし、開発した水資源の16%しか使わずに30年間運用されてきた河口堰の運用を見直すことで、近代化や水資源開発の過程で次第に遠くなっていった「川と人の関係」を再び近くへと結び直す可能性を示すことを試みた。2022年3月に岐阜大学が主催した「岐阜シンポジウム」の登壇者や愛知県の「長良川河口堰最適運用検討委員会」の委員を中心に18名が執筆者として参画した。
 
本書は4部構成である。第I部と第II部では、長良川の生物圏を代表する生物としてアユを取り上げ、川漁師の語りも交え、過去から現在に至るまで長良川の生物圏がたどってきた過程をわかりやすく解説した。アユは海域から上流まで回遊し、川の生物圏の持続可能性の指標であると同時に、鵜飼を通じた観光資源や地域の水産資源でもある。第III部は30年前の長良川河口堰運用後30年間の気候変動、海水温や潮位の上昇、土砂の堆積といった自然現象、人口減少、水需要減少といった社会現象、土砂の浚渫などの工事などについて俯瞰的に検証し、河口堰の運用次第で生物圏を回復しつつ社会や経済を適切に維持する可能性を示した。第IV部ではオランダや韓国の最新事例を紹介した。地域の食・環境・防災・公共事業のあり方に関心をもつ方々にぜひ読んでほしいと願っている。(日本農業新聞2024年7月30日読書欄より転載)
 

(紹介文執筆者: 農学生命科学研究科・農学部 教授 蔵治 光一郎 / 2024)

本の目次

口絵
はじめに――世界農業遺産、日本三大清流のアユは語る  蔵治光一郎
SDGsとアユと河口堰 (相関図)
木曽三川 (木曽川、長良川、揖斐川) 流域図
 
1 長良川の恵みとなりわい今昔
 
長良川の鵜飼の奥深い世界  岩佐昌秋
最後の1艘で守る夜川網漁  中山文夫
80歳現役漁師が見た「ばばちい川」  大橋亮一
憧れの川漁師、知られざる川の世界  平工顕太郎
【付記】その後の長良川  平工顕太郎
 
2 長良川のアユと生態系に起きていること
 
なぜ天然アユが準絶滅危惧種に?  高橋勇夫
長良川のアユと河口堰  古屋康則
【コラム】長良川のアユを支える揖斐川のアユに異変  古屋康則
河口堰による生態系の変化  向井貴彦
【コラム】過剰な放流は魚類を減らし、自然を失わせる  向井貴彦
温暖化が長良川にもたらしたもの  原田守啓
 
3 ふたたび、いのち幸ふ川へ――河口堰という試金石
 
長良川に「健全な水循環」を取り戻す  蔵治光一郎
なぜ今、河口堰の「最適運用」なのか  小島敏郎
気候変動と大地震に備える  今本博健
長良川治水の「これまで」と「これから」  今本博健
河口堰開門で塩水はどこまで遡上するか  藤井智康
伊勢湾の漁業・環境と河口堰  鈴木輝明
社会経済構造の変化に対応した水の使い方  富樫幸一
異常渇水にも対応できる新しい水利用秩序へ  伊藤達也
 
4 河口堰の最適運用に向けて
 
世界の河口堰の先進事例に学ぶ  武藤 仁・青山己織
【コラム】福原輪中の塩害を防ぐ「アオ取水」  伊藤達也
 
おわりに――近くて遠い川と人の関係を結びなおすために  蔵治光一郎
源流遊行絵図
【付録】それが「長良」やがね  大橋亮一・尾瀬妃那実
主な参考文献
年表――世界の環境問題と長良川
執筆者一覧
 
カバー・表紙画 村上康成

関連情報

編集エピソード:
長良川から切りひらく、川と人の未来|編集者のこぼれ話 [1] (農文協公式note 2024年2月8日)
https://note.com/nobunkyou/n/n589006e3caf1?magazine_key=mefbddde2e597
 
子供でもアユが面白いように釣れた時代|編集者のこぼれ話 [2] (農文協公式note 2024年2月21日)
https://note.com/nobunkyou/n/ne4c127b6ea36?magazine_key=mefbddde2e597
 
100年に一度の洪水と、日々の川の恵み|編集者のこぼれ話 [3] (農文協公式note 2024年3月7日)
https://note.com/nobunkyou/n/n5b8ef3c42ccd?magazine_key=mefbddde2e597
 
村上康成さんの傑作、長良川のアユ|編集者のこぼれ話 [4] (農文協公式note 2024年4月10日)
https://note.com/nobunkyou/n/n045e38b164c0?magazine_key=mefbddde2e597
 
サカナクションと長良川|編集者のこぼれ話 [5] (農文協公式note 2024年6月4日)
https://note.com/nobunkyou/n/nb7faee422b29?magazine_key=mefbddde2e597
 
サカナクション山口一郎さんの父、保さんの話|編集者のこぼれ話 [6] (農文協公式note 2024年10月23日)
https://note.com/nobunkyou/n/n11e6344b2199?magazine_key=mefbddde2e597
 
書評:
川那部浩哉 評「『長良川のアユと河口堰』を読んで」
(『長良川市民学習会ニュース』No.40 2024年6月5日[p.13])
http://dousui.org/news/20240605_news40.pdf
 
大熊孝 (新潟大学名誉教授・NPO新潟水辺の会顧問) 評「解き明かされる生態系崩壊の理由 河川行政に英断を迫る」 (『季刊地域』57号 2024年春号)
https://toretate.nbkbooks.com/9784540231278/images/chiiki57.pdf
 
戸田三津夫 評「最新刊『長良川のアユと河口堰』を読む 身近で『近い川』へ 川と人の関係を結びなおす」 (『市民環境ジャーナル』第40号 2024年3月号)
http://lowell.cocolog-nifty.com/gizen/2024/03/post-654eec.html
 
書籍紹介:
『東京新聞』 2024年8月3日
 
「構造物の最適運用を探る」(『日本農業新聞』 2024年7月28日)
 
「清流長良川のアユ、600→100トンに 30年目の河口堰を考える」 (『朝日新聞』 2024年7月21日)
https://www.asahi.com/articles/ASS7M0J8KS7MOIPE00GM.html
 
「おすすめの本」(山梨県漁業協同組合連合会ホームページ 2024年7月16日)
https://www.yamanashi-gyoren.com/archives/1778
 
武藤仁「『長良川のアユと河口堰』の出版」(『長良川市民学習会ニュース』No.40 2024年6月5日[p.12])
http://dousui.org/news/20240605_news40.pdf
 
「世の中にはたくさんいます」 (フライの雑誌社 2024年5月30日)
https://furainozasshi.com/asakawa/20240530-2/
 
「運用から30年、長良川河口堰に向き直す」 (『BE-PAL』 2024年6月号)
 
「流域一体、対話の時代へ『長良川のアユと河口堰』出版 東大大学院の蔵治教授編著」 (岐阜新聞web 2024年5月6日)
https://www.gifu-np.co.jp/articles/-/382046
 
「ほんだな」(『しんぶん赤旗』 2024年4月21日)
 
関連記事:
「長良川河口堰はいま 上 完成から29年 清流のアユ激減 研究者ら最新研究を出版 国は堰との関係認めず」 (『朝日新聞』夕刊 2024年7月11日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S15981033.html?iref=pc_ss_date_article
 
「長良川河口堰はいま 下 環境回復へ『プチ開門』試験案 愛知の検討委模索 韓国の事例からも学ぶ」 (『朝日新聞』夕刊 2024年7月18日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S15987021.html?iref=pc_ss_date_article
 
「主張:川と人の関係を結びなおすために」 (『現代農業』 2024年6月号)
https://www.ruralnet.or.jp/syutyo/2024/202406.htm
 
関連資料:
蔵治光一郎「『長良川のアユと河口堰川と人の関係を結びなおす』(農文協) の紹介」 (愛知県長良川河口堰最適運用検討委員会県民講座 2024年3月9日)
https://www.pref.aichi.jp/uploaded/life/529109_2442802_misc.pdf

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