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2022年 藤井総長年頭挨拶

掲載日:2022年1月1日

あけましておめでとうございます。新型コロナウイルス感染症の蔓延に悩まされる日々が続くなか、皆さん一人一人が新たな過ごし方を工夫し、困難を乗り越えて新しい年を迎えられたことを、まずはともに祝いたいと思います。

昨年は私自身も新型コロナウイルスに感染し、入学式に参加できませんでした。また、令和2年度の入学者歓迎式典も延期を経て6月に実施、五月祭や駒場祭もオンライン開催となりました。一都三県では、8月に新規感染者が急増し、医療提供体制の逼迫も重なって亡くなられた方や重症になられた方が多数に及びました。また、長きにわたって後遺症に苦しむ方もおられます。亡くなられた方のご遺族にお悔やみを申し上げるとともに、症状に苦しむ方には一日も早いご快癒をお祈り申し上げます。我々はこれまでの経験を教訓として、次の大きな流行に備えた着実な準備を行った上で、今後の対応もしっかり進めたいと決意を新たにしています。

さて2022年は私が総長に就任して最初に迎える新年ですので、前向きな未来への抱負についてお話ししたいと思います。

私が任期中に皆さんと一緒に考え、そして実際に取り組みたいのは、いかにして大学という場をさらに活性化させ、その可能性を広げていくか、ということです。その鍵となるのは、学内でも学外でも、より多くの人びとに大学のあるべき姿の議論に積極的に加わっていただくことだと考えています。

まずは学内のさまざまな人びとと対話を進め、東京大学の行動指針UTokyo Compassを昨年9月末に公表しました。そのメインメッセージ「多様性の海へ」には、本学がかねてから目標としてきた多様性の深化と包摂性の実現に向け、今こそ本気で取り組んでいきたい、という強い決意を込めました。

大学は確立した知識を伝授するだけの場ではなく、なにより、価値ある問いを共有し、探求していく場です。似た者同士が集まっても、新しい考えは生まれにくいでしょう。何が価値ある問いなのか、誰にとっての価値なのか、その問いに私たちはどう応ずるのか。そうした議論の場に関わる人びとが多様であればあるほど、学問は面白くなり、深まっていきます。また、世界が抱える諸課題の解決を考えるために、キャンパス自体が多様性を積極的に取りこんだ実験場となることもあってよいと思います。

UTokyo Compassが掲げた「世界中の誰もが来たくなるキャンパス」という目標は、多様な人びとがのびのびとキャンパスで活動し、互いに議論を交わすことで豊かな学問が生まれ、それがまた人びとを呼びよせるという好循環をイメージしています。

幸いにも、2020年の4月から、本学ではオンラインを活用して教育を止めることなく今日まで進めることができています。多くの学生が、「オンライン駒場祭」や「バーチャル東大」など創意工夫を凝らして自主的な活動を拡げていることをたいへん心強く感じます。こうした経験から、今後の大学にとって重要な知見が得られたことは積極的に評価すべきことです。

その一方で、キャンバスに集うことで得られる、新しい人びととの思いがけない出会いや、知識やアイディアのぶつかり合いの大切さを、改めて強く感じたひとも多いのではないでしょうか。今年4月から、本学では原則として対面授業を主体とすべく準備を進めています。再び活気あるキャンパスで、みなさんが集えるようにしたいと思います。

そのことを考えると、一昨年来、1100人以上の留学生がいまだに入国さえできていない事態を、たいへん残念に思います。11月に入国制限が緩和されたのもつかの間、再び新規の外国人の入国が禁止され、教職員一同心を痛めています。いうまでもなく、留学生の皆さんは、かけがえのないキャンパスの一員です。世界の数ある大学のなかで本学を選び、今後の世界を担っていくにちがいない皆さんの気持ちに少しでも早く応えられるよう、本学はこれまでも国に対して留学生のスムーズな入国を要請してきましたし、これからも要請していきます。

多様性にあふれ包摂性に富むキャンパスを実現するには、本学の「不都合な真実」にも率直に向き合う必要があります。本学の研究者および学生の男女比率に、大きな偏りがあるという事実です。本学が1946年に初めて女性の入学を認めてから、すでに75年が経ちますが、今もなお教授の女性比率が10%にも満たないのは残念なことです。これに対してUTokyo Compassでは、まずは教員の女性比率を25%以上にするという目標を掲げました。この目標を達成するため、それぞれの部局が現場固有の条件を踏まえつつ、5カ年計画を策定して、これを推進することとし、現在その策定作業を進めています。

学問分野によって研究者の男女比は大きく異なりますが、ほとんどの分野で、博士号取得者における女性の割合は小さく、教員の女性比率はさらに低いものにとどまっています。なぜこうしたアンバランスが起きているのか、さまざまな観点から検証することが重要です。アンバランス生成のメカニズムの認識とその構造の改善は、女性に有利な評価を行うことではありません。男性が中心となって作ってきたこれまでの環境や条件が、無意識のうちに女性に不利に働いてきた現実を考えることです。そのように自らの足もとを省みて知る力は、男性が多い研究室や職場で女性が疎外感を感じていないかの検証にもつながり、あるいは、採用人事のこれまでの基準がさまざまなキャリアパスやライフイベントに配慮したものであったのか、先入観なく点検していくことにもつながります。

世界の人口の半数が女性です。本学のキャンパスが実り多い対話にあふれ、皆が楽しめる場になることは、誰にとっても望ましいことです。研究者全体そして構成員全体、ひいてはより広い社会で活躍する男女のバランスを是正するため、部局や学問領域の違いを超えて対話を重ね、互いに知恵を出し合って、「不都合な真実」をのりこえるキャンパスづくりに着実に取り組んでいきたいと思います。

異質なものが手を取り合いながら問題を解決していくスタイルは、現代世界が抱える諸課題に取り組むうえで必須の姿勢になります。その際、学内はもちろん、学外の多様な人びととつながりを持つことも重要です。

さまざまな人びとの協力がとりわけ重要になる課題として、地球環境問題があります。この問題に対して、本学は、国内外の数多くのステークホルダーと協力して、その解決に取り組んでいきます。

例えば、昨年11月、本学のグローバル・コモンズ・センターは、日本企業の有志とともに、ETI-CGC(Energy Transition Initiative-Center for Global Commons)という産学連携プラットフォームを設立しました。産業・大学それぞれの立場から知見を持ち寄り、産業構造や経済社会システムの転換によって、日本のカーボンニュートラル、すなわち、温室効果ガスの排出を実質的にゼロにする日本ならではの道筋を描くことを目指しています。

本学が取り組んでいるグローバル・コモンズ・スチュワードシップ・インデックスは、世界各国が協力して地球環境を守るための仕組みづくりの一つです。この指標は、気候変動や生物多様性に対して、各国が、脱炭素化・食糧問題・都市のあり方・政策・金融市場など複数の観点から、どれくらい貢献しているか、あるいは負荷を与えてしまっているかを示す、いわば通信簿です。本学が韓国のChey Institute for Advanced Studiesと共催で毎年開催しているTokyo Forumという国際会議では、一昨年にそのインデックスのFirst Prototypeをリリースし、昨年12月のTokyo Forum 2021では、そのフォローアップセッションを設けて、100ヵ国までをカバーしたインデックスを発表しています。こうした多元的な指標を示すことによって、地球環境を守る取り組みに、各国がそれぞれの立場に応じたやり方で協力できるようになると期待しています。

そして何より、こうした試みは、隗より始めよ、ならぬ、キャンパスより始めよ、だと私は考えます。本学では2008年に「サステイナブルキャンパスプロジェクト」を発足させ、温室効果ガスの排出削減に取り組み、一定の成果を挙げてきました。ただ、これまでの試みには限界もありました。主にキャンパス内の建物の電気使用量の削減など、個々の問題に個別の方策で対応する傾向が強く、学内のさまざまな主体や要素を連携させながら、全体として上手に生かす仕組みが弱かったといえます。

本学は、2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを達成するための行動を呼びかける国際キャンペーンである「Race to Zero」へ、日本の国立大学として初めて参加しました。本学としてのカーボンニュートラルを実現するためには、教職員も学生も一人一人が意識を変えて、より多様なアプローチで取り組むことが必要です。教職員はもとより、学生の皆さんの活力と創造性にも大いに期待しています。実際に、Race to Zeroへ参画するにあたっては、昨年11月に開催されたCOP26では、グラスゴーの会場と日本をつないで学生同士が対話するイベントも実施されました。さらに教職員と学生との対話集会を開き、意見交換を通してよりよい活動方針を練っていきます。

地球環境問題への対処に関わる学知は、決して科学技術分野だけに限りません。この問題をより広い文脈で捉えなおす概念が、グリーントランスフォーメーションです。これは、人類の共有財産である地球環境をよりよく管理し、将来世代に引き継いでいくための社会の変革を意味し、「GX」と略されます。この遂行には、人類の営みと関係するすべての学問分野が関係します。特に人文・社会科学分野のプロフェッショナル人材と科学技術分野のプロフェッショナル人材との連携は、GXを成功させるための要になります。

そのためには、研究者の卵の段階から、異質で多様な研究者と連携する経験を積んでおくことが重要です。科学技術振興機構(JST)の次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)事業に採択された、本学の「グリーントランスフォーメーションを先導する高度人材育成」プロジェクト、これをSPRING GXと呼んでいますが、このSPRING GXでは、昨年の秋に600人の博士課程学生を選抜しました。SPRING GXは全ての分野の博士課程学生が参加できるプロジェクトであり、さまざまな特質の専門分野を持つ学生達が、社会にそれ相応の規模感をもって巣立っていってもらうことを期待したものです。例えば、人びとの行動指針を考える倫理や教育、規範を与え国際協調を促す法律や政治、グッドプラクティスを共有するためのさまざまなメディアの活用や開発、行動変容につながるインセンティブを与える経済システム、再生可能エネルギーの利用やエネルギー消費の削減などの科学技術、こうしたものがうまく組み合わさっていくことで大きな力になります。

GXにはあらかじめ決められた経路があるわけではありません。むしろ、壮大な問いです。プロジェクトに参画することは、その大きな問いを念頭に、多くの対話を重ねることを意味します。それぞれに異質で、いわばバラバラな人びとが一つの問いでつながり、さまざまな探究からまた豊かな展開が生まれていきます。新たな学問連携を生む起爆剤としての可能性をGXは秘めているのです。それはまさに多様性の海へと飛び込んでいくことにほかなりません。簡単なことではありませんが、とてもワクワクすることではないでしょうか。

ここでお話ししたことはいずれも、本学執行部が画一的な施策を指示して成功する類のものではありません。キャンパスにおいて、またさまざまな立場の人びとのあいだで、対話がなされることでしか、満足な結果は得られません。そのために、私も知恵を絞り、工夫を重ねてまいります。皆さんもぜひ一緒に、キャンパスでの対話を始めようではありませんか。このことを申し上げて令和4年(2022年)年頭の挨拶といたします。

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東京大学総長 藤井輝夫

令和4年(2022年)1月1日
東京大学総長
藤井輝夫
 

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