抗生物質を超える新しい抗菌薬の実現を目指して
このシリーズでは、未来社会協創推進本部(FSI)で「登録プロジェクト」として登録されている、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に貢献する学内の研究活動を紹介していきます。
FSIプロジェクト 036
近年、さまざまな研究から、腸内細菌が潰瘍性大腸炎といった消化器疾患だけでなく、アレルギーや自己免疫疾患、がん、糖尿病、うつ、アルツハイマー病など、ほぼすべての病気と関連していることがわかってきました。腸内細菌の一部が生体に異常な刺激を与えることで、生体システムが乱され、これらの病気につながるのです。これを防ぐため、腸内の免疫物質は体に害を与える菌を無力化する働きを持っています。
「免疫とは、外部から侵入した異物(非自己)と、自身が本来持っているもの(自己)を区別し、非自己を速やかに処理するしくみである、と教科書には書かれています。ところが実際は、非自己であると認識されているにもかかわらず、体に害を及ぼさない物質には攻撃しないという免疫の働きもあるのです。私たちは、免疫がどのようにして攻撃すべき物質を見分けているのか、そのメカニズムを研究することで、抗生物質とは異なる新たな抗菌戦略につなげたいと思っています」と語るのは、定量生命科学研究所の新藏礼子教授。
抗生物質は、結核をはじめとする細菌感染症から人類を救った、20世紀最大の発見と言われていますが、体のほとんどの細菌に作用し、体内の環境に激しい変化を生じさせるリスクが生じます。しかし、害となる細菌のみを攻撃する薬ができれば、そうしたリスクを克服することができるかもしれません。
「粘膜などで分泌されるIgA抗体という免疫物質は、粘膜を防御する作用をもたらしますが、その一方、IgE抗体と呼ばれる別の物質が粘膜で産生されると花粉症などのアレルギー反応の原因となります。現在のところ、アレルギーの治療薬はIgE抗体の産生やその効果を抑えるものしかありませんが、IgEになるはずだった抗体を粘膜防御に役立つIgAにスイッチさせる薬があれば、アレルギーの原因を根本から除去することができるはずです」と語る新藏先生の研究は、そのような新しい薬の実現に向かって確実な一歩を踏み出しています。
このプロジェクトが貢献するSDGs
新藏礼子 教授 │ 定量生命科学研究所