キャンパス散歩/奈良時代から続いた鉱山で宇宙と素粒子を観る「神岡の東大」| 広報誌「淡青」41号より
奈良時代から続いた鉱山で宇宙と素粒子を観る「神岡の東大」
宇宙線研究所
附属重力波観測研究施設/広報
宇宙線研究所
附属神岡宇宙素粒子研究施設/広報
富山駅から南へ30km、岐阜県最北部の山間の静かな集落に宇宙線研究所附属神岡宇宙素粒子研究施設と重力波観測研究施設があります。岐阜県飛騨市神岡町は、奈良時代から採掘が始まった鉱山の町で、神岡鉱山は、かつては東洋一の規模を誇った日本有数の亜鉛鉱山でした。飛騨片麻岩という非常に硬い岩盤と豊富な地下水に恵まれた神岡鉱山内の地下1000mにおいて、陽子崩壊現象を観測するためのカミオカンデ実験が1983年から開始しました。1987年には大マゼラン星雲で起きた超新星爆発からのニュートリノを世界で初めて観測、2002年に小柴昌俊特別栄誉教授がノーベル物理学賞を受賞されました。1995年、宇宙線研究所附属神岡宇宙素粒子研究施設が設立されました。カミオカンデよりも検出器のサイズを大きくしたスーパーカミオカンデ実験が1996年に開始され、1998年には大気ニュートリノの観測によりニュートリノ振動を発見。これが2015年の梶田隆章特別栄誉教授のノーベル物理学賞受賞へとつながります。
一方、神岡鉱山内では、地下の静かな環境を活用した重力波の研究もすすめられています。2006年に完成した腕の長さ100mの低温重力波検出器CLIOで低温技術を実証した上で、2010年に3kmの大型低温重力波望遠鏡プロジェクトが開始、2012年にはトンネル掘削が始まるとともに愛称がKAGRAと名づけられました。2016年にそれまでの重力波推進室を改組して重力波観測研究施設が発足、そして2019年に完成、慎重な調整を経て2020年観測を開始しました。
両研究施設は、地上にある研究棟エリアと山の地下の実験エリアとに分かれます。研究棟エリアには、共同利用研究者が利用できる宿泊棟、それぞれの研究棟があります。研究棟エリアから車で10分ほど離れた場所に実験エリアへのトンネルがあります。
まずはスーパーカミオカンデ実験エリアへ向かいましょう。一年中13度とひんやりした坑内を約2km坑内専用の車で進むとスーパーカミオカンデ実験エリアの入口に到着です。まず目に入るのは、サインが書かれた板が数枚。著名な方が見学に来た際に実験室のドアにサインをしてもらうのがカミオカンデ以来恒例となっています。たくさんの配管を横目に進むと広い空間に出ます。スーパーカミオカンデ検出器タンクの蓋の上です。スーパーカミオカンデは、直径・高さ約40mの水タンクの壁面に、光センサーを約11,000個並べ、5万トンの超純水を蓄えてニュートリノなどの観測を行う実験です。タンクの上の広い空間は、1000m分の岩盤の重さを分散するためにドーム型になっており、タンク上部には、光センサーからデータを取り込む電子回路などが置かれています。
タンク上部から通路を戻ると、研究者が検出器を監視するコントロールルームがあります。毎日昼間は2名の研究者が検出器各部が正常に動いているかチェックを行っています。
続いて、KAGRAの実験エリアへ向かいます。「かぐらトンネル」を400mほど進むと、KAGRAの心臓部、中央実験室に到着します。実験室内にはパイプで繋がれたたくさんの真空タンクが並んでいて、タンク内には様々な役割の鏡が吊るされ、その間を赤外線レーザーが走り抜けます。
中央実験室からはL字型に長さ3kmのアームトンネルが伸びています。研究者が区別しやすいように、2次元グラフのX軸、Y軸になぞらえてそれぞれXアーム、Yアームと呼ばれます。グラフの原点の位置でX、Yの2方向に分けられたレーザー光はそれぞれの真空パイプ内を進んでゆきます。
腕の先端にもXエンド実験室、Yエンド実験室と呼ばれる実験室があり、ここに設置した鏡でレーザー光を反射し、中央実験室へ戻すことでXアーム、Yアームの長さの変化を超高精度で測ります。
地上のデータ収集解析棟には研究者のオフィスや事務室、計算機室のほか、KAGRAの制御室もあります。KAGRAの観測中は人が歩く振動も雑音となるので、制御や監視はKAGRAトンネルの入口から5kmほど離れたこの場所から行います。
2020年、スーパーカミオカンデの純水中にガドリニウムというレアメタルの一種を溶かし、過去の超新星爆発からのニュートリノをとらえる新しい研究が始まります。さらに、同じ年にスーパーカミオカンデの約8倍の有効体積を持つハイパーカミオカンデの建設が開始され、2027年の実験開始を目指しています。KAGRAによる重力波検出の期待も高まります。宇宙・素粒子の世界最先端基地として、神岡での宇宙や物質の起源の謎に迫る挑戦にぜひご注目ください。