『巽軒日記―自明治三三年至三九年―』

 「巽軒日記」は、東京帝国大学で教授を務めた井上哲次郎の日記である。89冊現存する井上の日記のうち本史料室では84冊を保管しているが、今回はこの中から明治30年代の部分(33~39年)について活字化を試みた。従来、東京大学百年史の編集を機として『東京大学史史料目録3加藤弘之史料目録・井上哲次郎史料目録』の小冊子を刊行していたが、「巽軒日記」の本文がまとまって紹介されるのは今回が初めてである(「懐中雑記」と題された井上の留学中の日記については、『東京大学史紀要』第11号・第12号において福井純子氏が翻刻)。
  この日記には、日々の来訪者や書状往復の相手先が克明に記録され、それに加えて井上自身の動静や社会的事件等が客観的に記されている。反面、井上自身の感情や思考はほとんど見えてこない。そのため、内容を楽しみながら読むという類の史料ではないが、井上自身あるいは当該時期を対象とした歴史的研究を行っている人にとっては、日記の記述から意外な発見があるかもしれない。幅広く活用されることを期待したい。

2012年3月
東京大学史史料室
室長 吉見俊哉

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