蔵出し!文書館 第10回

蔵出し!文書館
収蔵する貴重な学内資料から
140年に及ぶ東大の歴史の一部をご紹介
 
 

第10回 渡辺淳一からの葉書―「白菊会関係資料※1」より

 「日本人の死生観について小説を書きたく、いろいろ関係書を調べているところです」。
 1973年12月、白菊会理事長の倉屋利一に葉書でこう宛てた人物は、作家の渡辺淳一でした。この一文は白菊会からの資料提供による礼状に記されたものです。
 翌年、渡辺は『白き旅立ち』という小説を発表しました。実在した日本の志願解剖第一号 と言われる美幾女(みきじょ)とその生涯を題材にしたフィクションです。苦難な道を歩んできた美幾が、慕う医師へ向けた献体によって最期に愛を結晶化させる話の流れは、まさに渡辺ワールド全開ともいえるでしょう。
 この小説では、「白菊会」の事業紹介だけでなく同会刊行物も掲載されています。白菊会とは、藤田恒太郎(元東京大学解剖学教室教授)へ解剖実習のための献体を志願した倉屋利助の息子、倉屋利一によって1955年に発足した篤志献体団体です。その趣旨は、「死後自分の遺体を正常解剖(医学生・歯学生の実習用)のために寄贈すること」でした。
 白菊会本部は医学部本館あるいは医学部1 号館の一角で運営した時期がありましたが、2003 年度に本部業務を終結しました。しかし、東大をはじめ、支部であった各大学の白菊会という名称の団体は、今でも存在します。
 のちに渡辺は、「死が果てしない無だからこそ、いま生きているうちに精一杯、生きるべきだとも思う。」と述べています※2。渡辺のたどり着いた死生観と白菊会の存在について、一通の葉書から思いを馳せた次第です。

(文書館教務補佐員・小根山美鈴)
※1 「白菊会関係資料」所蔵番号:F0121
※2 渡辺淳一「解剖と死」(『渡辺淳一作品集 月報18 白き旅立ち』文芸春秋、1981年6月)
今回の蔵出し資料
「白菊会関係資料」所蔵番号:F0121


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