蔵出し!文書館 第13回

蔵出し!文書館
収蔵する貴重な学内資料から
140年に及ぶ東大の歴史の一部をご紹介
 
 

第13回 筆写された動物学教科書

 「昔は何でも手で書きとって勉強した」――まさにその真骨頂というべき教科書が、東京大学文書館にあります。書名は『動物学教科書』、著者は農科大学教授石川千代松。「緒言」によれば、ヨーロッパの動物学を修めた石川が、日本における教授法を研究した成果として明治26(1893)年に公刊したもので、当時の基本文献とされました。現在は国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧することができます。
 しかし文書館のものは、その刊行物ではなく、ほぼすべてを筆写した手書き版なのです(請求記号:F0113/2「石川動物学教科書」)。おそらく刊行間もない頃、当時の学生某が(図書を買えず?)丁寧に写しとったものと推定されます。和紙の罫紙に筆でびっしり書かれた手製の和綴じ教科書…学生某の学問への情熱を伝えるに十分な迫力です。本文はもとより、圧巻は挿入図。動物学に必須の各器官の構造や多様な動物の姿などが、詳細に描かれています。本家の図書の挿絵と比較しても、その精密さは全く遜色がないばかりか、むしろ印刷物にはない美しさすら感じさせます。また、当時の日本人には馴染みのない「かんがるうノ縮図」には「半写生半想像図」とのキャプションが。「にうじいらんど産のきう゛い鳥」の姿もユーモラスです。 農科大学を舞台として、近代科学を導入しようと工夫を重ねた教授と、筆写教科書を手に勉学に勤しんだ学生の日常が垣間見える…そんな資料ではないでしょうか。皆さんも東京大学文書館で、手書きならではの迫力と美しさを、ぜひ手にとってご堪能ください。

(特任助教・ 秋山 淳子)
今回の蔵出し資料
F0113/2「石川動物学教科書」


写真1:「自然大」(実物大)のトノサマガエル図


写真2:「きう゛い鳥」図

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