蔵出し!文書館 第14回

蔵出し!文書館
収蔵する貴重な学内資料から
140年に及ぶ東大の歴史の一部をご紹介
 
 

第14回 足尾鉱毒事件と古在由直(こざい よしなお)

 第10代総長の農芸化学者古在由直は、足尾鉱毒事件にかんして、その原因が足尾銅山からの流出銅であることを実証的に示したこは、よく知られています。
 明治24(1891)年、被害地の農民代表が土のサンプルを持って、農科大学助教授の古在由直に直接分析を依頼していますが、一方で栃木県・群馬県も農科大学に分析を依頼しています。最先端の分析ができる研究機関が限られていたとはいえ、立場を異にする両者から分析を依頼されたということは、研究者としての信頼を得ていたことを示すといえるでしょう。
 この二つの依頼に対し、それぞれに調査・分析結果が公刊されます。ここで注目したいのは、徹底した実地調査等による実態の把握と試料の分析による結果公開です。古在の心情は農民側にありましたが、研究者にとっての基本は堅実かつ公正な科学的姿勢であることを、古在の緻密な調査報告書がものがたります。
 今回の蔵出し資料は、明治35(1902)年に設置された第2次鉱毒調査委員会の委員に任じられた古在が、調査委員として11月24日付で委員長(法制局長官)宛に提出した報告の原稿(資料ID:F0003/01/0013)です。この原稿については完成版も当館資料にあり、古在の研究姿勢を頭に置きながら両者を並べ比べることで、古在の推敲の「意味」が見えてくるのではないでしょうか。
 古在は駒場農学校と農科大学の双方で教鞭をとり、関東大震災時の総長でもありと、東京大学の画期に関わった人ですが、残念ながら古在由直関係資料はあまり活用されていません。我こそはと思う方、この資料群を使って古在の再評価をしませんか?
(准教授・森本祥子)

参考:熊澤喜久雄「足尾銅山鉱毒事件を巡る農学者群像」(『肥料科学』36号)

今回の蔵出し資料  

「鑛毒被害地土壌試験報告 古在記」(F0003/01/0013)

「古在由直」(F0096 総長肖像パネル)

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