蔵出し!文書館 第19回
蔵出し!文書館 収蔵する貴重な学内資料から 140年に及ぶ東大の歴史の一部をご紹介 |
第19回 偽学生、あらわる!
先日、書庫にて今春新規公開の法人文書を整理していたところ、気になる簿冊を発見しました。その名も「偽学生関係」(S0039/SS08/0004)。学生部学生課が作成した明治期からの膨大な記録群に含まれるもので、調査業務シリーズの1冊でした。さて、「偽学生」とは穏やかならず。内部を開いていきます。
文書の作成時期は昭和9年から16年、内容は大半が東京帝大生を騙った詐欺事件、「偽帝大生」出現への対処によるものでした。ことの発端は昭和10年2月、大阪市内の実業家からの寄附金が「共済部」宛に届きます。送り主によれば「勤務先に帝大生数名が訪れ、東北地方冷害の困窮学生救済等を目的とする寄附を依頼された。彼らは制服制帽を着用し、学生証と共済部長末弘厳太郎名による委員証明書も提示した」とのこと。学内に共済部はなく、この学生は偽名と判明、部長とされた法学部教授末弘も何ら関知しない事態でした。
同様の照会も複数あったため、大学も新聞で注意を喚起します。すると北海道から近畿まで、偽名や実在学生を騙るもの、単独や集団など多様な偽学生が出現し、学生援助を目的とした寄附金や物品販売(多くは粗悪文具、なかには「トーダイ印」鉛筆も)を強要する事件の報告が相次ぐ結果となりました。「そんな振る舞いは帝大生にふさわしくない」との市民の箴言や、一緒に嵐山見物をと誘われ、高級時計を交換・詐取された哀れな京都のカフェ女給の手紙も綴じられています。その後、12年頃には沈静化しますが、15年になると再燃、朝鮮京城、満州奉天などから報告が上がります。なんと「偽帝大生」は海外雄飛を遂げていました。
事件の信憑性を高めた制服制帽や学生情報は、古着・古書市場で入手できました。印鑑や証書の偽造も行われ、そこからアシがつく事例も。また紛失や盗難にあった学生証の使用例も多く、その被害学生への事情聴取記録も生々しい声を伝えます。出身地での名声が利用される例もあり、知的エリートとして信頼を得ていた帝大生ゆえの危険性、社会や地域のなかでの存在感を浮き彫りにする記録といえるでしょう。
個人情報の管理はくれぐれも慎重に、という教訓をこめて。気になる方はぜひ文書館までお越し下さい。
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