蔵出し!文書館 第20回

蔵出し!文書館
収蔵する貴重な学内資料から
140年に及ぶ東大の歴史の一部をご紹介
 

第20回 資料のカタチが伝えるもの

 突然ですが、問題です。この資料は誰が作成したものでしょう?

 答えは、内田祥三元総長です(資料ID:F0004/A/3/13)。
 当時の糊は澱粉糊だったはずで、少しでもつけすぎると紙が伸びてしまってきれいに貼るのはけっこう大変ですが、伸縮率の違う新聞紙と台紙とに皺ひとつつけず、かつ糊のはみ出しも塗り残しもなく、ぴたりと貼り付けていく絶妙な手さばきは特筆に値します。
 また、会議資料にはびっしりとメモが付されており、記録を書記任せにせずに情報を自分で整理・記録することで、確実に消化していたことが窺われます。情報を咀嚼するとき、聞くことに集中してあえてメモを取らないという方法もありますが、内田元総長は手を動かしながら頭の中で要点を整理していたのでしょう。
 そしてこれらの資料は、自身の名前の頭文字(U、Y)の意匠を印刷したフラットファイルに几帳面に綴られています。こうしたカタチからは、モノそのものを整理することで頭の中も整理していただろう ことが推測されます。

 詳細なメモ取りの習慣や系統だったファイル作りからは、基本的に「あるべき情報はすべてここにある」、言いかえれば、「ここに書かれていなければ情報がなかった可能性が高い」と推測も可能です。この、情報が「元々ない」と言えることは、意外と重要です。
 このように、資料のカタチもまた多くのメッセージを発しており、それは資料の中身の理解を助けます。想像を膨らませすぎないように気をつけつつ、資料現物の持つ“書かれていない”情報もキャッチしたいものです。

 

(准教授・森本祥子)
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