蔵出し!文書館 第21回
蔵出し!文書館 収蔵する貴重な学内資料から 140年に及ぶ東大の歴史の一部をご紹介 |
第21回 太陽系全カタログ:そして盾は銀河の彼方へ
1969年1月18日、安田講堂を占拠する学生に対し、警視庁の機動隊が封鎖解除を開始しました。機動隊が学生たちの抵抗を「解除」するために使用した道具のひとつに、ジュラルミン製の盾があります。学生の投げる石を避けるため、木枠に盾を並べて突入路も作られました(図1:東京大学文書館 S0087/0008)。東京大学文書館の所蔵資料にも、盾が一枚あります(図2:東京大学文書館 S0075/0033)。盾の出自と来歴は明らかではありませんが、学生の手にあったものを後に東京大学が保管することになったようです。
現在この盾がまとうのは、大学紛争の政治的緊張感だけでなく、1968年前後の欧米のヒッピー文化やサイエンス・フィクション文化への憧憬がつまった空気感です。盾には、「太陽系全カタログ」「パルサーの発見された日」「フォボス」「宇宙のミッシングリンク」「銀河系の彼方へ」といった言葉が書き込まれています(図3)。「太陽系全カタログ」とは、1968年にスチュアート・ブラントが創刊した雑誌『全地球カタログ(Whole Earth Catalog)』のタイトルをもじったものでしょう。また、当初は地球外知的生命体による信号ではないかとも想像されたパルサーが、ジョスリン・ベルによって発見されたのは1967年のこと。そして、火星の衛星フォボスが人工天体であるという、ソ連の天文学者ヨシフ・シクロフスキーの説が日本語で出版されたのは1968年でした。
落書きの主たちがどこで盾を手に入れたのか、その「ミッシングリンク」が埋まることはないかもしれません。それでも若者たちが、全地球どころか全太陽系を相手にしてやろうとホラを吹きつつ、大好きな宇宙の神秘にまつわるフレーズを盾に書きなぐったことは間違いないでしょう。今でもどこかで若者たちは、『全地球カタログ』の終刊の言葉にあったように、“foolish” で “hungry” であろうとし続けているかもしれません。想像力を広げてみれば、色は違えどこの盾が、何やらモノリスにも似て見えてきます。