蔵出し!文書館 第28回

蔵出し!文書館
収蔵する貴重な学内資料から
140年に及ぶ東大の歴史の一部をご紹介
 

第28回 背負って逃げて守れ!~御真影・御勅語奉遷箱~

 今年は、1890(明治23)年10月30日に「教育ニ関スル勅語」が発布されてから、ちょうど130周年である―ということに、文書館への資料複写依頼が重なって気づかされました。
 帝国大学には7ないし8通の謄本が下賜されたことは、当館所蔵「文部省往復」文書に記録がありますが、文書館ではそのうち、明治天皇直筆署名の付された謄本を2通保存しています。戦後回収されたはずの教育勅語がなぜ残っていたのかという経緯は未確認ですが、とにもかくにも今に伝わっています。官立学校に下賜された御署名謄本が現存する例は、他にはないのではないでしょうか。
 しかし今回紹介したいのは勅語そのものではありません。勅語を緊急時に搬出するための「奉遷箱」(S0047)です。

撮影:野久保雅嗣(東洋文化研究所)
 
 写真からわかるとおり、「御真影」「御勅語」と明記されており、背負えるようになっています。中は堅牢な金庫になっているので、用途は推測できるものの、名称を含めて、長くこの資料にまつわる一切の情報は不明でした。ところが、昭和18年に定められた「御真影等奉護心得」の制定手続文書が含まれた「内規及諸規定等」(S0018/SS08/0001)という簿冊が文書館に移管されたことから、そこで初めてこの資料の名称やその運用ルールが判明したのです。この「心得」には、緊急時にどのような手順でどこに「御真影」「御勅語」を避難させるか、ということが定められています。奉遷箱がいつ作られたのか、最初から今の形だったのか、などは依然として判明しませんが、最終的に背負える形になっていることからも、終戦間際には日常となっていた空襲の緊迫感が伝わってきます。
 東大に残された教育勅語は、菊の御紋をあしらった漆塗文庫に保管されており、さらに奉遷箱も伴うことで、「モノ」としての教育勅語のありようが伝わる非常に珍しい資料となりました。
 

 

(准教授・森本祥子)
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