蔵出し!文書館 第52回


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蔵出し!文書館 収蔵する貴重な学内資料から 140年を超える東大の歴史の一部をご紹介 |
第52回 路面電車の敷設と東大
かつて東京大学に面する本郷通りには、馬車や人力車、さらには路面電車も走っていたことをご存じでしょうか。大正13(1924)年の『法学部卒業記念写真帖』には、電車は写っていないものの、正門前の路面電車のレールがくっきりと映っています。
『〔法学部卒業記念写真帖〕 大正13年4月』(F0025/S01/0009)
一見、通学に便利な路面電車は歓迎されているように思えますが、実際には、大学側は必ずしもその敷設を歓迎していなかったようです。
本郷三丁目から赤門前、正門前、農学部前を経由する路面電車が開通したのは大正2(1913)年ですが、当館所蔵の『文部省往復 明治三十二年』(S0001/Mo113)には、鉄道敷設に関する各所とのやり取りが残されています。 大学側は、鉄道の敷設方法によっては、鉄道に近い教室や大学全体がその影響を避けられず、電車の運行に伴う磁力変動が大学内の精密な電流計に悪影響を及ぼす恐れがあると訴え、文部省や東京府知事、東京市長に意見書を送っています。この文書では、当時の東大での磁気研究や研究への影響への懸念、さらにはイギリスやドイツで物理学研究のために電車の敷設を見合わせた事例も紹介されています。また、理科大学の教授が行った京浜電気鉄道に関する実験調査の結果も、類似の事例として報告されています。また、当時の理科大学教授が実施した京浜電気鉄道の実験調査結果を基に、鉄道敷設が研究に与える支障を示しています。
路面電車は、その後の車の交通量増加や地下鉄の発展に伴い、昭和46年(1971)年に廃止されましたが、長らく東大生の通学手段として活用されました。路面電車敷設に関する資料や詳細はすべて追いきれていませんが、交通の便や経済効果よりも、研究への影響を重視する大学の姿勢がうかがわれます。
(助教・元 ナミ)