蔵出し!文書館 第53回


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蔵出し!文書館 収蔵する貴重な学内資料から 140年を超える東大の歴史の一部をご紹介 |
第53回 非常の賑に有之候~ドイツのクリスマス
当館には、東京帝国大学第十代総長を務めた古在由直(1864~1934)の資料が寄贈されています(F0003「古在由直関係資料」)。足尾銅山の鉱毒調査や、関東大震災後の東京帝国大学の復興に尽力したことで知られる古在の、鉱毒関係調査資料、大学校務関係、書簡、写真など、総数600点を超す資料群です。
古在は出張中、母、妻、そして子供たちに、連日のように手紙や葉書(多くは滞在地の絵葉書を使用)を書き送っていました。農科大学助教授時代の1895(明治28)年、古在はドイツ留学を命じられました。大晦日の12月31日、日本にいる家族に宛てた手紙で、その数日前に体験したベルリンでのクリスマスを極めて詳細に伝えています。「先つ一種の松の枝ふりよきものを撰ひ…」/「日本にて「たなばた」に竹に紙片を結付るか如し」/「綿片を松の枝にちらし掛候此は雪をなそらふ…」/「銀色の針金にて作りたる細き縄を纏付け其上に蝋燭を無数に立て…」など、現地で見たクリスマスツリーの仕立てについてまず文章であらわし、さらに紙面余白に、ツリーの飾りつけの様子を、「蝋燭」、「綿」、「色々の人形」などと説明を加えながら描きました。ツリーの様子を忠実に伝えようとする様子に、思わず笑みがこぼれてしまいます。「家内のもの総出にて歌を歌ひ祭日を祝し…」などと、当地の習慣も事細かに記述するなど、異国の文化を興味深く捉え、観察した、古在の姿が想像できます。
「〔書簡〕 母 良子・妻 豊子宛 〔独乙留学中〕」 (F0003/S07/SS01/0312)
手紙(葉書)の締めくくりには家族の健康を気にかける一言を必ず添え、幼い我が子に宛てるときには文章を全て片仮名で記すなど、温かな人柄を偲ばせる古在総長の筆致を、ぜひ御覧ください。
(学術専門職員・星野 厚子)