蔵出し!文書館 第55回


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蔵出し!文書館 収蔵する貴重な学内資料から 140年を超える東大の歴史の一部をご紹介 |
第55回 「移牒」の話―公文書に記された古代の言葉?
本学のシンボルは銀杏の木ですが、今回はそのイチョウのことではありません。昭和20年代の「文部省往復」という本学と文部省(現文部科学省)との往復文書綴りのうち、ある文書に「移牒(いちょう)」と記されていました。移牒とは、一つの官庁から管轄の異なる官庁への通知や、その文書のことです。
今から1,300年ほど前、7世紀末から整備された基本法である「律令」の「公式令(くしきりょう)」では、公式様文書(くしきようもんじょ)という行政文書について定めています。ここに含まれる「移(い)」は直属関係にはない官庁が取りかわす文書、「牒(ちょう)」は官庁から、それに準じる所または官庁ではない所に出す文書でした。明治時代以降、「移」「牒」のふたつを組み合わせて「移牒」を用いることにしたようです。 当館のデジタルアーカイブでは、件名に「移牒」が含まれていても中身の公文にはない文書があります。また、明治39(1906)年の「文部省往復」には、米国から外務省への「通牒」(文書による通知)が文部省に「移牒」され、沢柳政太郎文部次官から浜尾総長あてに進達された文書が綴られています。通牒と移牒を使い分けた例です(S0001/Mo128/0033)。
古代の律令制を模した明治の太政官制のもと、官庁どうしの通知は「移牒」とされ、戦後まで受けつがれたのでしょうか。ある官庁職員によると「30年を超える公務員生活で、(移牒という用語は)一度も使ったことがない」とのこと。一体、いつから使用されなくなったのでしょう。
今回の蔵出し資料
→『明治三十九年 文部省往復乙』(S0001/Mo128)より
(学術専門職員:寺島 宏貴)