蔵出し!文書館 第56回


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蔵出し!文書館 収蔵する貴重な学内資料から 140年を超える東大の歴史の一部をご紹介 |
第56回 お蔵入りになった蔵
当館は経理部管財課が保管していた、国有財産に関する資料群を所蔵しています(S0040『経理部管財課旧蔵資料』)。明治中頃から昭和初期にかけての、土地や建物の取得、施設の管理に関するもので、図面類が多く含まれているという特徴があります。
画像はその中でも「雑件」がまとめられた簿冊に綴じられていた図面の一部です。わずか4坪弱のこの小さな建物、何を目的とした施設だと思いますか?
『自明治四拾参年七月至大正十二年十二月雑件書』(S0040/0014)より
正解は附属病院に氷を卸していた業者が設置する、貯氷庫兼配氷所です。治療に用いる氷の確保と保管は附属病院にとって長年の課題のひとつだったらしく、明治14年に小石川植物園の池から氷を採取してよいかを問い合わせた文書も当館に残っています。
図面は大正4年に作られたもので、当時は氷を製氷会社の蔵から購入し、構内にある薬局の倉庫に運搬のうえ保管をしていました。しかし、気温が高いと運搬中や保管の間に融けてしまい、どうしても多くの損失が出てしまいます。そこで、大学構内の土地を無料で貸し付け、業者に配氷所を設置してもらい、必要な分だけをその都度購入しようと考えたようです。
簿冊には、建物の仕様書案も一緒に綴られており、「木造屋敷人造石張り」であること、入口はガラスを嵌め込んだ引き分け戸であること、床にはコンクリートを用いることなどが書かれています。
しかし残念ながら、この建物が実際に建てられたことは確認できず、構内に配氷所を確認できるのは大正14年以降になります。土地の貸付け料が、大正4年の案は無償であるのに対し、大正14年には有償となっていますので、無償では許可が下りなかったと推測されます。大正14年の貸付けは、昭和3年に返地となっていますので、業者としても採算が合わなかったのかもしれません。
(特任研究員:小澤 梓)