蔵出し!文書館 第63回

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収蔵する貴重な学内資料から
140年を超える東大の歴史の一部をご紹介

第63回 消毒された手紙

第16代総長を務めた矢内原忠雄は、よく知られているように、無教会主義のキリスト教徒でした。当館では、その伝道活動を物語る矢内原宛の書簡を多く保存しています。

 写真は、そうした書簡のひとつです(参照番号:F0220/S06/0212)。この書簡は国立ハンセン病療養所のひとつ大島青松園(香川県)の入所者から届いたものです。矢内原はここを幾度か訪問し、入所者たちと交流をもちました。愛媛県今治市出身の矢内原は、かつてハンセン病患者のひとつの生き方だったお遍路さんになじみがあったことが指摘されていますが、キリストがハンセン病患者の病を癒した奇跡はキリスト教にとって重要な逸話であり、この点からも、矢内原にはハンセン病患者との交流はとても重要な意味を持つものだったのでしょう。書簡の差出人は療養所で矢内原の講演を聴き、その思想・信仰に深く共鳴し、たびたび手紙を出しています。
 さて、封筒には「消毒済」と押印されています。これは療養所から所外に発送される際に、気化したホルマリンで消毒されたことを示すものです。この措置は、1953(昭和28)年に定められた「らい予防法」(1996(平成8)年廃止)第18条「入所患者が・・・使用し、または接触した物件は、消毒を経た後でなければ、当該国立療養所の区域外に出してはならない」に拠るものと考えられます。
 しかしここで指摘したいのは、ハンセン病の感染力はとても弱く多くは接触しても発症しないことは昭和の初めから医学的に知られていたし、治療薬は1943(昭和18)年にアメリカで発明されてハンセン病は治癒可能になっていたし、その薬は戦後日本にも入ってきて厚生省は1949(昭和24)年にその手配の予算をつけていた、()()かかわらず(、、、、、)、患者を隔離して療養所外との接触を禁じるという、いわば科学的には解明されている事実を踏まえない法律が、1953(昭和28)年に成立しているという事実です。当事者たちの思いはいかばかりだったでしょうか。
 ほんのひとつのゴム印ですが、それが静かに私たちに見せる世界は重く、深く、私たち一人一人がどう社会に向き合うべきかを自ら考えよと語りかけているように思われます。

(准教授:森本祥子)

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