株式会社カプコン 代表取締役会長CEO 辻本 憲三 様

第16回ゲスト

tsujimoto




株式会社カプコン 代表取締役会長CEO

辻本 憲三 様

       
日時: 2018年6月22日(金) 19:00~20:35)
場所: 伊藤国際学術研究センター3階特別会議室
http://www.u-tokyo.ac.jp/ext01/iirc/access.html
ゲストスピーチテーマ: 「ワードクラスのものづくり経営とは」

紹介

1940年、奈良県に生まれる。畝傍高校(定時制)卒業。
1960年代に起業後、黎明期よりゲーム業界に参入し、1983年にカプコンを創業。
7年後には株式を公開。
国内外でヒット作品を次々に生み出すなど、世界的なゲームメーカーに育て上げる。
個人事業として、1998年、ナパ・ヴァレーにてワイナリーの畑作りに着手。
2010年にワイナリー「ケンゾーエステイト」を正式に開業。日米で高い評価を受ける。
現在、全7種のワインを手掛けるなど、オーナーとして世界最高峰のワインづくりを指揮する。
1980年紺綬褒章、2004年経済産業大臣表彰、2007年藍綬褒章を受章。

【関係リンク】
会社リンク等:http://www.capcom.co.jp/

報告




<ご講演内容>
  • 私は、1940年生まれなので、皆さんが大学を出て私の歳まで働くとすれば、55年以上働かなければならない。大学に入って終わりではなく、どうやって出ていくか、これからの大学での勉強が大切だ。
 
  • 会計士、弁護士になるというのも1つの選択だが、実業界に入ったならば、「いいものを作る」ということを考えてほしい。今の商品が5年先、10年先どうなるかをよく考えて作ってほしい。
 
  • 昔はグーグル、ヤフーなんかなかったから大変だったが、今はITがあるので、すぐに会社を作ることも出来るだろう。てっとり早く儲けるために、商売をやってみたらどうか。
 
  • これから5年先、10年先どうなるかを考えていれば、ちょっと情報が入ってくれば、すぐに意味がわかる。4Gから5Gに1Gに上がったらどうなるか、6G、7Gの世界になったらどうなるか。将来を見据えて勉強することが大切だ。それを20年、30年と続けていけば人間として熟成する。
 
  • ワインのぶどうもそうだが、何でも産地は重要だ。東大は、新しい日本を作る日本一の産地なのだから、ここで芽が出ないわけがない。今、成績のこと、日々のことで悩むのは当然だが、そんな悩みは、たかが知れている。5年、10年、将来のことを考えてほしい。
 
  • 将来の仕事をどうするか考えてほしい。50年続く仕事かどうか。新しいものに目を向けてほしい。
 

<Q and A>
Q 自分は、ジャズピアノの勉強をしているが、音楽や文化は、今以上に人を幸せにする可能性があると考えられるか?
 
A 音楽や文化がこれからも大切なのは、変わらないと思う。ただ、マーケットは変化するだろう。漠然と可能性を考えるのではなく、どうすれば、もっと音楽を楽しめるのか、もっとこうすれば音楽は楽しめるということを自分で考えるべき。
私の時代は、ラジオしかなく、ビートルズ、美空ひばり、石原裕次郎という人たちが全盛の時代。
昔は、同じ分野の中でも細分化することを考えれば、なんとか成長できた。
今のような成熟した市場において大儲けすることは難しいだろうが、それでも自分が好きな分野で、思い切りとんがったものを作れば、なんとかなるだろう。(貴方は)私の年齢までは、50年以上あるだろうから、ゆっくりと考えられればよい。
成功することは、簡単だ。凡人は、悪いところを変えようとする。オセロゲームで言えば、黒いところを白くしようとする。そうではなく、自分が好きなところ、得意なところでとんがったものを作ればいいのだ。
 
Q ナパ・ヴァレーでのワイン作りに関し、今、拝見したDVDの中で、ケンゾーエステートならいける!という箇所があったが、どのような点に可能性を見いだされたのか?
 
A そう考えた理由は2つある。まず、ナパ・ヴァレーはワインの一大産地であり、世界的なブランドの1つとなっているために、それなりの人材が集まっている場所だということ。もう1つは、私が有していた土地は、山の中にあったことだ。植物は森の中で育つ。良い環境で育てれば、良いブドウ、ひいては良いワインができると思った。
  
人材の面では、天才的栽培家デイヴィッド・アブリューとの出会いがあった。しかし畑の面では、道は平坦ではなかった。彼の出した条件は「すべての樹を引き抜き、畑をゼロから作り直すこと」。当時、私の畑では既にブドウの木が育っていたが、畑の土壌が不完全で、100株中、10株の根がきれいに伸びずに丸まってしまっていた。
90株は大丈夫なわけだから、90点はとれるわけだが、とんがったものを作るには完璧でなければならない。結局すべての木を抜いて、一から畑作りをおこなった。
 
Q 以前、ダイヤモンドの記事でケンゾーエステートの記事を読んだ。カプコンのCEOを務めながら、ワイン作りでも成功を収めるというのは凄いことだと思った。ゲームもワイン作りも人をワクワクさせるという点では共通すると思うが、人をワクワクさせるポイントは何か?
 
A それは、簡単だ。今、隣にいる人をワクワクさせるためには、どうすればよいか?
それは、「自分」のためでなく、「彼」「彼女」のために何ができるかを考えることだ。モノ作りであれば、「買う人」のために何を作るかを考えるということだ。これがポイントだ。
 
買う人が何を望むかを知るためには、マーケティングも大切だ。
私の場合は、テイスティングバーを設けて4種類のワインをグラスで出し、顧客の好みを探るとともに、サクセスストーリーの映像を流し続けた。幸い、うちのワインをわかる人々はレベルが高い人が多く、有名店に行ってウンチクを語ってくれたので、程なく有名店のワインリストに掲載されることになった。
 しかし、ワインはあくまで飲むもので語るモノではない。お客様が飲みやすいようにハーフボトルをどのワインでも作った。750mlは飲めなくても375mlなら飲みやすい。一般に,ハーフボトルの価格はフルボトルの65%くらいに設定されるが、当店では半量を50%の価格で供している。
 
また、ワインの価格が一年中安定するように、問屋を通さず直販している。追加注文が来ても対応できるように、最初の出荷量を抑えている。その理由は、在庫数が少なくなると、店は販売価格を上げるからだ。
何を売れば、人が喜ぶかを知るには自分の感性を磨くしかない。私の場合、1万円以上のワインを1万本買って、毎回5種類ほど選びグラスになみなみと入れて、皆で話しながら、飲み比べをした。最終的に一番減るワインが、皆が喜ぶ、美味しいワインというわけだ。
 
やはり、良いモノは良い環境からしか生まれない。インドネシアでは良いワインは生まれない。なぜなら、環境がブドウ作りに適していないからだ。
 
 東大は、新しい日本を作る環境が揃っているのだから、みなさん、頑張ってほしい。いい意味で、もっと遊んでみたらどうか。遊びの中から新しいモノが生まれるかもしれない。
 
 私の時代は、戦争であらゆるものが破壊され、新しいモノがたくさん生まれた。
 今は破壊がないから、あらゆるものが残っていくが、いずれ限界が来るだろう。
 
Q 2つ質問したい。

  1. ワイン作りを成功させるカギとなる2人との素敵な人物があったわけだが、素敵な出会いを可能とする方法は?
  2. ゲームとワインは全くベクトルが異なるものだと思うが、なぜこの2つを選んだのか?

 
A 1の質問について
ワイン作りに関しては、地元メディアが、私が100億円かけてワイナリーをやると宣伝してくれたのが大きかった。
出会った2人はプロだから、どんな畑でやればいいブドウが出来るかわかっているし、どんなブドウで作ればいいワインができるかわかっているわけだ。トップクラスのベースがなければ、トップクラスのモノが出来ないことを知っているわけだ。逆に言えば、トップクラスのモノが出来るベースがあると判断すれば、トップクラスの人は来てくれる。実際、それまで、協働したことがなかったトップ2人が来てくれた。
ワイン醸造家であるハイディバレットは、白ワインは5年以内に飲んだ方がよい、と言っていたが、実際には5年以上熟成させたワインも飲んだら美味しかった。彼女が予想した以上のトップクラスのワインが出来たわけだ。
 
2の質問について
私は、ゲームとワインは全く一緒だと考えている。
どちらも、なくても生活には困らないが、あったら人生を楽しいものにするものであるという点で共通しているからだ。
  
Q 今、エンタメの会社で人事の仕事をしている。質問にはならないかもしれないが、ゲームとスポーツが結びつくとは意外だった。その点、どう思われるか?
 
A ストリートファイターは、皆が知っている「格闘技」というものだったから、Eスポーツとなり得た。皆が知らない新しいものでは、そうは、なり得ない。
 
5年先、10年先、クラウドが一般化し、4K、8Kの時代になると、もっと新しい形態のものが出てくるかもしれない。
 
Q モンスターハンターが大好きだ。モンスターハンターはどのようなコンセプトで出したのか?
 
A モンスターハンターは、当初据え置き型のソフトとして販売したわけだが、これは欧米市場を見据えてのことだ。
 
日本では、とりわけ大都市圏では移動手段が電車やバスなどの公共交通機関だから携帯端末用のソフトが普及しやすい。一方、欧米は車社会である故に自分で運転して移動する。したがって、移動中に携帯端末でゲームをするということは考えられず、90%は据え置きの端末を使うというのが現状である。  
日本の場合は、携帯端末だけですみ、10年後は、もっと携帯が変化しているだろう。
 
Q 経営者としての辻本さんに伺いたい。今まで事業を続けてきて、修羅場のようなものは経験されたか?
ターニングポイントとなったエピソードなどがあれば教えてほしい。
 
A そんなことばかりだった(笑)
例えば魚屋という商売をすることを想定する。10万円で仕入れて20万円で売ることを考えたとする。想定通りいけばよいが、実際は魚が傷んでしまったりして、7万円分のみしか売れなかったとする。そうなったら、一所懸命工夫して、3万円分の魚が腐って売り物にならなくなる前に干物にしたりするだろう。本当に困ったときは、必死に考えて知恵を出すしかない。
  
カプコンの場合も、良いソフトを作ろうとしたら、サウンド、デザイン、キャラクターがスペックの取り合いとなった。良い商品を作るために、それぞれが好きなだけスペックを使ってよいとしたら、それまでの2枚の基盤が20枚になってしまった。
仕方なく、基盤を無理矢理チップにしてもらってなんとかした。それまでの10倍
のスペックとなったわけだから、ほかのメーカーの商品が勝てるわけがない。
 
カプコンでは、会社の状況に関する膨大な資料を全て数値で表している。文字はない。
私は資料の右下、つまり利益のところから見ていく。ここが前期比プラスになっていないと投資家から相手にされないからだ。
 
全て数値で見ると言うことは、配線図を見ているようなもので、どこがショートして具合が悪いのかが一目瞭然でわかる。
 
Q 大学のとき、どのような学生だったか、何をおやりになっていたか、何をすればよいか教えてほしい。
 
A それは皆さんに代わりに答えてほしい質問だ。
私は、中学2年のときに父親を亡くし、中学校を卒業すると近所の会社に就職し、
定時制の高校に通ったので、大学には行っていないからだ。
 
5時45分に、仕事が終わり、昼間の学生が下校するのを横目で見ながら夜学に登校した。そうするうちに、勉強だけして1日を過ごすよりも、1日に仕事と勉強をしている自分の方が濃い人生を送っていると思った。
 
もし、父親が一億円の土地を残していたら、財産がなくなるまで遊んでいたかもしれない。「逆境とは、誇り高き人生なり」定時制高校を卒業するにあたり私が記した言葉だ。
 
                                                     
 

 

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