松井証券株式会社 代表取締役社長 松井 道夫 様

第2回ゲスト

matsui



松井証券株式会社 代表取締役社長

松井 道夫 様

日時: 2012年1月19日(木) 19:00~20:30
場所: 産学連携プラザ2階 会議室2AB
ゲストスピーチテーマ: 「見切り千両 無欲万両」

紹介

1953年長野県生まれ。一橋大学卒業後、日本郵船入社。87年に義父の経営する松井証券に入社し、95年に代表取締役社長就任。1918年創業の老舗でありながら中小地場証券に過ぎなかった松井証券で、外交営業の廃止など、業界の慣習や旧来の常識を覆す改革を次々に断行。「証券業界の革命児」とも「異端児」とも称される。98年に日本初の本格的インターネット株取引を開始。99年の手数料自由化で斬新な新手数料体系を打ち出し、個人投資家から圧倒的な支持を獲得。01年に東証1部上場。

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【関係リンク】
コーポレートサイト http://www.matsui.co.jp/
 

報告


動画はこちら

仕事についての細かい話をするのではなく、若い人たちとディベートをして、商売の参考にしたいと思って来た。「イノベーションとは何か」というビジネスでの永遠の課題について考えたい。

┃松井証券の社長として

そもそも、私は起業をして社長になったわけではない。松井証券は創業から94年目の企業で、自分は4代目。日本郵船のサラリーマンが、結婚を機に松井証券に入社し、成り行きで現在の商売の形になった。ITにも興味がない。

冒頭の紹介の部分で、松井証券のビジネスモデルについて言及があったが、商売とは、設計図を作って形にするというものでもない。イノベーションが大事だが、それも思いつきで生まれる訳じゃない。

 社長としての仕事とは何か。大事なことは、現場で社員の仕事をみて回ることじゃなく、社長室で座禅を組んで瞑想することだと思っている。世の中はめまぐるしく変わる。時代の流れに合わないと、どんなに大きい会社でも、どんなに素晴らしい人材、潤沢な資金があっても淘汰される。

┃無欲・無心

イノベーションについては、シュンペーターが言っていた「創造的破壊」という言葉がいちばん合うと思う。破壊的な創造ではなく、まず破壊してのち創造するということ。「とりあえず新しいことをやってみて、上手く言ったら、古いのを捨てよう」と言う人がいるが、それは間違いだと思っている。

禅の言葉で「坐忘」という言葉がある。「坐して忘れる」で、意味は、新しいものを取り入れるためには、まず捨てなければならない。その空いたところに新しいものが入ってくるという教え。ビジネスでも同じことが言えるのではないか。

先日、弓道について紹介する番組を見ていた。自分は、アーチェリーと同じように的に当てれば良いのかと思っていた。しかし、昇段試験の審査委員曰く、「的に当ったか当らないかは基準の10%ぐらい。見たいのはこの人が無心でいられるかどうか。」自分も剣道をやっていたが、武道とは心の問題であり、無心でいるということが重要だ。

何故、このようなことを言うかと言うと、井原西鶴が日本永代蔵の中で「始末(倹約)十両 儲け百両 見切り千両 無欲万両」といった。最上であるこの「無欲」とは、「無心」ということではないかと先の弓道の話を合わせて思った。

さらに無欲・無心とは何かと考えると、それは映画「ソーシャルネットワーク」のFacebookを創立したザッカーバーグの気持ちのようなものではないかと思った。もともと女の子に振り向いて欲しいという動機から生まれ、それが巨大SNSサービスになった。

つまり、極めて人間的な動機によって生みだされたものが、一見、無関係のところでイノベーションとなり、万両の価値となる。はじめから儲けようと思って考え出したものではない。日本人だからIT産業が成功しないのではない。江戸時代に、既に西鶴が言っているのだから、土壌はあるはずだ。儲けようと百両程度を追っているからではないか。無欲、無心から生まれたものをビジネスに結び付ける、それこそがイノベーションの本質ではないかと思う。

┃削ぎまくれ

当社の社員は100人程しかいない。人数を増やしたいとは思わない。社員には「どうか頑張らないで下さい」と言っている。頑張ったところで1~5割増し程度だ。そんなものを追い求めて、貴重な人生の時間を浪費する必要はなく、価値あるものにしてほしい。だから、「頑張らないでいい方法を、頑張って考えて下さい。」と言っている。そのためには、極めて高度な専門知識が必要であるから、大いに勉強して欲しいと言っている。実行することは更に難しいが、工夫してやっていこうと声をかけている。自分自身にも同じことを言い聞かせている。

入社当時はバブル崩壊直後で会社が潰れてしまうかと思ったが、①対面営業をやめた②コールセンターをやめてネット営業に転換したことが成功し、取扱売買金額は300倍になった。頑張って出来ることを探すのではなく、仕組みを変えたことが良かった。ただ、こうしたビジネスモデルもこの10年でコモディティ化してしまった。東証一部に上場果たした2001年以来10年間で1,500億円ほどの経常利益を上げたが半分は税金、半分は世の中の変化に対応するだけの軍資金とし内部留保として残している。

恐竜が絶滅してゴキブリが生き残ったのは構造が単純だったからという話を聞いたことがある。組織でも同じことが言えるのではないだろうか。世の中の変化に対応するためには、削いで削ぎまくった方が良いと思う。

┃時代の変遷の中で

21世紀はどういう時代になるのか、今までと同じ価値観でいいのだろうか、という不安を皆がもっている。20世紀はアメリカによる大量生産大量消費の価値観の時代だった。例えば、自動車は所有の典型のようなものだったが、東京に住んでいる限り、深夜でも電車は走っているし必要がないという若い人も多い。自動車が所有の対象となる財から公共財と考えるような価値観の転換も起こっている。反対に、日本にある四季は、雪の降らないシンガポールに住む人々は所有できない。公共財と思っていた、季節や空気や水といったものが所有の対象になるかもしれない。価値観が変わり、全ての物の価値が見直される中においてビジネスはあるのだから、商人はついていかなければならない。

だから、企業の最大のリスク・コストは、時代とのギャップである。時代とギャップが生じたら、縮めなければならない、それを行うのは社長だ。つまり、企業のリスク・コストは、社長の頭の中だと思っている。しんどいが面白い。

結局、最後は自分の頭で考えるしかなく、他律で生きているとろくなことがない。皆さんはこれから社会に出て思いっきり経験すると思うが、世の中は不条理。そんなことを言ったって、始まらない。スタンスとして自律で生きていけば世の中のバイラルにはまらないのではないか。

┃最後に

最近自分は、学生時代に全く関心のなかった哲学の本を読むことが面白い。考えてみると思い当たる節がある。全く関係のないような哲学を読んで、シナプスのように結びつけてビジネスに生かす。やっと商人が面白いと思えるようになった。イノベーションも出来るし、結果もわかる。やるだけやってみよう。失敗したら、昔なりたかった絵描きでもなろうかな、なんて考えている。

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