株式会社サイバーエージェント 代表取締役社長 藤田 晋 様

第14回ゲスト

CA Mr.Fujita-sama




株式会社サイバーエージェント 代表取締役社長

藤田 晋 様

日時: 2014年9月10日(水) 19:00~21:00
場所: 伊藤国際学術研究センター3階特別会議室
http://www.u-tokyo.ac.jp/ext01/iirc/access.html
ゲストスピーチテーマ: 「ネットビジネスのつくり方」

紹介

サイバーエージェントを1998年に創業し、2000年に史上最年少社長(当時)として東証マザーズに上場。
「Ameba」をはじめとするスマートフォンサービスを運営する一方で、国内No.1のインターネット広告代理店でもあるインターネット総合サービス企業 サイバーエージェントを率いる。1998年の創業から一貫して、インターネット産業において高 い成長を遂げる会社づくりを目指し、「21世紀を代表する会社を創る」を会社のビジョンに、代表取締役社長であると同時に、「Ameba」の総合プロデューサーおよび技術担当取締役としてサービスの拡充・拡大に注力。

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【関係リンク】
http://www.cyberagent.co.jp/

報告

 

東大TVで講演動画をご覧いただけます。
http://todai.tv/contents-list/events/premium-salon/vol13

┃「若くして活躍出来る会社」サイバーエージェントについて

 1998年の設立から今年で17年目、連結社員数が3,000人ほどになっている。事業は売上の半分ほどがインターネット広告事業、残りの約半分がAmeba事業とゲーム事業で形成されている。サイバーエージェントに就職を志望する学生の志望動機には 「若くして活躍できそう」というものが多いが、入社1年目でグループ会社の社長にすることも、内定者が作った会社に投資するということもあり、実際に若い社員が多く活躍している。

 売上規模はこの2014年9月期で2,000億円ほど、営業利益が220億円ほどと、前年比126%で右肩成長を続けている。設立当初は社長の自分と常務の2人しかおらず、上場した頃は売上が4億5,000万円ほどしかなかったが、その400倍以上 の規模に成長した。だがこれまで、会社の方針として大型のM&Aは行っていない。全てを自分たちの手で作り、人材を一から育てる「自前主義」を取っている。そのようなやり方は、買収によって大きくなる企業とは対極で、日本社会に適したもの だと考えている。
 サイバーエージェントは「小さく生んで大きく育てる」という方針のもと、事業拡大をしている。ネットビジネスをゼロから立ち上げることにかけて、我々は相当多くの経験を積んできた。今日はそれに基づき、「ネットビジ ネスの作り方」をお話したい。

 


 

┃すごい会社を創りたい」という思いから起業をした

 ビジネスの方法論に入る前に、私自身のこれまでの経歴を話したい。
 私は福井県出身で、高校の頃はバンド活動をしており、将来はミュージシャンになるのが夢だった。当時のバンド仲間に「自分がいつかレコード会社を作って皆をデビューさせる」と言っていたのが、「会社を作りたい」という発想の原点だった 。その後、上京して青山学院大学へ入学したが、勉強よりも麻雀に熱中する日々が続いた。
 しかし大学2年の時、若い経営者のいる会社でアルバイトをしたことで転機が訪れた。生き生きと働く社員の姿を見て「すごい会社を創りたい」という志を抱くようになった。起業を考えるのであれば、学生時代に経営者と間近で接する ような環境に身を置くことは、意義のあることだ。企業のトップというと特別な存在だと思いがちだが、実際に話してみると自分とそう変わらないように思えてくるのである。
 就職活動の時期には、起業か就職かで迷っていたが、USENを立ち上げた宇野社長に出会い、志の高さに共感したことで、当時宇野社長が経営していたインテリジェンスに就職を決めた。入社後も「すごい会社を創りたい」という思いがあり、一年 間がむしゃらに働いた後、「会社を創るので辞めます」と言うと「それなら出資させてほしい」と仰っていただき、同期を一人連れて起業した。この時の同期が、現在のサイバーエージェント副社長の日高だ。
 起業した当時、私は24歳で、資金もビジネスアイデアさえもなかったが、「裸一貫で起業して、死に物狂いでやって駄目でも経験が残るし、ゼロは元々ゼロでしかない」と開き直りのような部分もあった。さらに、腹を括って 起業すると決めると、不思議なほど資金やアイデア作りにも協力者が現れた。寝る時間以外は全て働き、週110時間くらいを仕事の時間に充てていた。これで駄目なら仕方ないと思えた。

┃26歳で史上最年少上場社長に、インターネットバブルの到来と崩壊

 起業して1年後に、インターネットバブルが到来した。当時サイバーエージェントは数少ないインターネット事業であり、ベンチャー株が投資対象として注目され出していた時勢を利用し、設立から2年で上場を果たした。私は26歳で上場企業の社 長となり、当時の最年少記録を更新した。当時自分の持っている株式の価値が、単純計算で400億円ほどであり、短期間で急成長したことで世間から注目を浴びたが、翌年にはネットバブルが崩壊し、これまで評価されてきた以上に、厳しい批判に 晒された。27歳の時には会社をあきらめかけたこともある。経営者として舵取りが困難な時期もあったが、それを乗り越え、黒字化させて現在に至っている。

 


 

┃ブログサービス後発組ながら、運用によってヒットしたアメーバブログ

 ここから今回のテーマである、「ネットビジネスの作り方」についての話に入る。
 サイバーエージェントはいわゆる広告代理店のような事業からスタートしたが、設立当初から、自社のネットサービスによって収益をあげることを目指していた。そして2004年に、ようやく念願の自社メディアとして立ち上げたのが、Ameba事業 だ。アメーバブログはリリースした当時、既に他社のブログサービスが優勢だった。ネットビジネスでは通常、先行するサービスが改善を重ねるため、後発のサービスが追いつくことは難しい。では何故アメーバブログはヒットすることが出来たの か。
 我々はアメーバブログを発表してからも「芸能人ブログ」や「アメーバピグ」などの新たなアイデアに取り組み、また地道にサービスの問題改善に取り組んできた。これらの運用を続けていくことで、アメーバブログは成功した。ネット サービスでは、発表時の評価が必ずしも高くなくとも、最終的には、その後の運用が成功を決定づけると言える。これらを踏まえて、ネットビジネスを作る上で、大切な3つのことについて話したい。

┃経験から語る、ネットビジネスを創る上で大事なこと

① 内製で作る
 サイバーエージェントでは、いわゆるアウトソーシングは基本的に行わない。社員が3,000人もいる理由は、技術者もデザイナーも自社で抱え、問題発生時には即座に自分たちで対処するためだ。外注することは簡単だが、受託会社が見ているの は発注元であり、ユーザーではない。ネットサービスを提供する側は、24時間ユーザーと向き合う必要があり、それには全て内製で行える環境がなくてはならない。 
ビジネスモデルとして、ネットビジネスは、テレビや出版社のような他のメディア事業と似ている。例えばテレビの場合は、視聴率が上がればCMが多く流れ、広告収入が増えるため、収入を増やすために視聴率を上げようと努力する。ネットビジネ スの場合は、視聴率がページビューに相当する。ページビューが伸びれば広告を増やすことが出来、有料会員や課金するユーザーが増えることで収入が増える。そのためネットビジネスでは、ページビューを増やす努力をしている。
 しかし視聴率を上げる要因が、テレビとネットでは異なっている。テレビの視聴率を左右するのが、主に番組内容であるのに対し、ページビューを左右するのは「サーバーレスポンスが早い」「ユーザーインターフェースが使いやすい」 など、一見すると内容とは関わりがない技術的な部分だ。自分の感覚では、そのような部分がページビューの7割を積み上げている。それらを担うのが技術者やクリエイターである以上、その重要な役割を外注するという選択肢は ない。
またガラケーからスマホに変わったことで、デザインを活かす要素が増えた。スタンプやゲームも、デザインが良いものが売れており、クリエイティブな部分の重要性も増している。そのようなクリエイティブな部分を支えるクリエイターと、技術 面を支えるエンジニアと、企画を作るプロデューサーと、いずれの仕事も外注に任せることは出来ない。彼らはそれぞれ違う文化を持っているが、あくまで一つの会社の中で、三位一体で開発に取り組むことが必要だと私は考えている。

② アイデアを活かす組織創り
 ネットビジネスのアイデアを活かすためには、組織創りも重要だ。アイデア自体を出すことは簡単だ。例えば皆さんをこの部屋に閉じ込め、「私が認めるレベルのアイデアが3つ出るまで帰さない」と言ったとする。実はこのような方法が、アイ デアを出す上では最も効果的だ。限られた環境さえ作れば、脳の在庫からアイデア自体は必ず出てくる。
 しかし実際に難しいのは、アイデアを実行に移す段階だ。またその課題解決は、個人の力だけでは難しい。そこでサイバーエージェントでは、アイデアを実行する上での課題解決を、組織的に行う方法を設けている。「ジギョつく」というビジネ スプランコンテスト、「詰め切りセンター試験」などの方法がそれだ。
 具体例として「詰め切りセンター試験」では、実行前のアイデアの課題解決を合宿形式で行う。ビジネスのアイデアをいくつか用意し、実行のための課題解決の方法をチームで議論し考えさせる。このような方法で、課題が解決されたものが、現 在のサービスにつながっている。また、経営に関わる重要な事業決定については、役員がメンバーを選んで合宿を行い、オフィスから離れて1泊2日など限られた時間の中で決める「あした会議」という会議体も年に2回行っている。

③ 運用力
そして最終的にネットサービスの成否を分けるのは、発表した後の運用力だ。リリースされた当時に「クールなサービス」と言われなくても、実際にはその後の運用力によってヒットしているサービスは多い。アメーバブログも発表した当時は色々 な苦労があったが、10年間運用を続けてきて、ようやく現在の規模にまで発展した。それは次にあげる3つのプロセスで運用を続けてきた成果だ。
1つ目は今あるものを改善すること。2つ目は打開であり、これ以上改善しても伸びない、というところで時間がかかっても抜本的な手を打つこと。3つ目はイベントで、クリスマスやバレンタインなどイベントを打ち続けて、ユーザーのア クセスが絶えないように工夫することだ。当社ではこれらの運用を行う上で、具体的な手法がある。
例えば、サービスがある基準に到達しているかを確認する「K点チェック」という仕組みがある。これをクリアした場合には、まずリリースをし、その後は運用によって改良をして
いる。そのほか、打開や改善のアイデアを生むための空間として、オフィス内に「ダカイの間」「カイゼンの間」という特別な部屋を設けるなど、運用の過程のための独自の工夫をしている。

 総括すると、ネットビジネスを作る上で大事なことは、まず「内製であること」である。良いサービスを作り出すには、技術者でもクリエイターでも、どのような立場の社員も他のメンバーと協力し、一丸となって作り上げる体制が なくてはならない。 
またネットビジネスのアイデア自体は容易に生まれるが、ネットの自由さや新しさは、時としてアイデア自体の底の浅さにもつながる。深みのあるアイデアを生み出すには、社内の自由度を上げることと同時に、創造に制約を課すことも併せて必要 だ。そしてそのような制約を設けることは、会社が組織的に行わなければ難しい。そこで「アイデアを活かすための組織創り」がネットビジネスを行う会社にとって重要になる。
そして最終的に成功の鍵を握るのは、サービスをリリースした後の「運用力」だ。ネットビジネスは短期で成否が決定するものではない。たとえ発表直後の評価が高くなくとも、ユーザーと向き合い続け、自分たちの手で問題解決に取り組 み、地道に打開と改善を継続していく努力によって、最終的にはサービスをヒットさせることが可能になる。

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