株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA) ファウンダー 取締役 南場 智子 様

第9回ゲスト

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株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA) ファウンダー 取締役

南場 智子 様

日時: 2012年12月12日(水) 19:00~21:00
場所: 伊藤国際学術研究センター3階 中教室 (本郷キャンパス)
http://www.u-tokyo.ac.jp/ext01/iirc/access.html
ゲストスピーチテーマ: 「DeNAの成長の軌跡とグローバルNo.1への道のり」

紹介

1986年4月、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。
1988年、マッキンゼーを退職し、ハーバード大学へ。
1990年にはハーバード大学にてMBAを取得し、その後マッキンゼーに復職。
1999年に株式会社ディー・エヌ・エーを設立。
同年、マッキンゼーを退職し、DeNA代表取締役社長に就任。
2011年6月、取締役就任(現任)。

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【関係リンク】
http://www.dena.jp/

報告


マッキンゼーから逃亡? そして起業

 1986年にマッキンゼー・アンドカンパニーに就職して、2年後にハーバードビジネススクールへ留学した。何故行ったのか。正直に言うと、「逃亡」だった。留学中は本当に楽しく、2年間の疲れや嫌なことを全部忘れてしまったので、辛くて 逃げたマッキンゼーにまた戻った。今度は仕事が楽しくなっていって、好きに仕事を出来るようになった。だからその当時は、まさか自分がマッキンゼーを辞めて、事業を始めるとは思ってもみなかった。

 1996年には、パートナーとなってインターネット絡みの新規事業を手掛けていた。あるときに「どうしてオークションやらないのか」と提案したところ、「自分でやれば良いのではないか」と言われた。「そういう選択肢があるのか!」と地 面から足が10cm浮き上がった気分だった。コンサルタントは、通常、提案だけで、徹夜をしてクライアントと一生懸命、事業計画を作り上げても、実行の段階で関わることは出来ない。「自分が作ったビジネスモデルと付き合い倒したい。 ビジネスが世の中に出て、人々の役に立つまで携わりたい。そして、その収益が上がるまでやってみたい」。 1999年に創業したけれど、最初の5年程は全然売上が出なかった。

 

大きな躓きから初めての「No.1」まで

 DeNAと言えば、現在は、「モバゲー」や野球と言われるだろうが、元々は、オークションサイトの「ビッダーズ」を立ち上げた。創業時のエピソードは色々とある。大変苦しい立ち上げだった。

まず、我々が最初につくった事業計画には、バッグエンドの部分が全く考えられていなかった。人のビジネスのコンサルタントをしてきたにも関わらず、大事な部分が抜けていた。出資元のリクルートの支援者からは「0から作り直しましょう」 と言っていただき、必死に作り直した。リクルートに向かうタクシーの中の約30分間の往復が唯一の睡眠時間だった。

 そして、運用テストを始めるという日に、ベンダー内の事情で、コードが一文字も書かれていないことがわかった。まさにパニックで、手が震えてしまっていた。「本当にないの?」と何時間、何千回も繰り返していた。情けなくも、DeNA社 員全員が同じ状態だった。思わず夫に相談したのは、後にも先にもあのときだけだ。そんな状況の中、日本テクノロジーベンチャーパートナーズ(NTVP)代表の村口和孝さんが、陣頭指揮を執って下さって、インフォテリア株式会社取締役副社長の 北原淑行さんが協力して下さった。

 この最初の大きな躓きから、人にシステムを頼むことがいかに間違っているか、自分に出来ないものを人に頼んでは駄目だ、ということを学んだ。そこから、世界中から優秀な人材を集めることを最優先課題としている。 

 その前後に、優秀なエンジニアがまとめて入ってくるということがあった。ある講演会の後の名刺交換のときに、情けない顔で履歴書を持ってきた人物がいて、「ベンチャーに、こういう人はありえない」と思って断ったのだが、「手弁当で 行くので、仕事を見て判断欲しい」と言う。「それならば」と実際にやらせてみたら全て効率的に作業をしてくれて、すぐに内定を出した。この優秀なエンジニアが仲間を6人連れてきた。全員が優秀なエンジニアで、システムが強化されたきっか けになった。

 実はこの後、彼らがいた会社の社長から「大切な部下をとっていくな」とのお叱りをうけた。このことだけでなく、起業すると人に対してハングリーになる。だから、どうしても人に纏わる不義理が出てきてしまう。これはとても長い時間か けて残るし、償いきれないかもしれないが、誠実に償っていかなければならない。

 こうして立ち上げたビッターズは、Yahoo!を追撃したこともあったが、結局、オークションサイトNo.1になることは出来なかった。そこで、ショッピングモール事業を展開した。株主からは、「次のライバルは楽天か。大きい敵と戦うことは やめたら良いのに」と言われたが、我々の想いは違っていた。それまでYahoo!を意識しすぎていたので、次はユーザーをしっかり見つめ、彼らの求めるものを提供しようと考えた。ユーザーは、オークションを楽しみに来ているのではな くて、物を探しに来ていた。ならば、競売方式にこだわる必要はない。満足度を上げて、ARPU (average revenue per user)を上げていこうと試み、初めて黒字化してきた。

 企業が利益を出すことに対し、営利主義だと言って否定する人もいるが、そんな単純な話ではない。商品を提供するにはコストがかかる。顧客には新しい価値を提供して、コスト以上の価値を認めてもらったときに初めて利益が出る。 利益が上がっていない状況と言うのは、世の中の資源を食いつぶしているということだ。DeNAの社長を12年続けて、一度だけうれしさで涙が出たが、それは、4年目にして初めて月次で黒字になったときだけだ。

 当時、そのままショッピングモール事業で利益を追求し、規模を大きくするという選択肢もあったのだろうが、上がった利益を、新規事業のために使わせてほしいと株主にお願いした。何かで「No.1」になりたかった。そし て機が熟した頃に、モバイルへのシフトを図った。モバイルパケット定額制が出てきた頃の話で、誕生した「モバオク」は、急速に成長し、初めて「No.1」になった。

 

DeNA

 DeNAが今目指すのは、グローバルNo.1の成功事例をつくること。IT関連の領域で幅広く捉えても、真のグローバルリーダーと言える日本企業が出たことはない。この領域は、変化が激しい。これは既得権益に守られず、常にユーザーの審判に 厳しく晒されているからだ。言いかえれば、実力勝負と言える。その中で、何故、日本企業が出てこないのか。DeNAはぴかぴかの成功事例をつくりたい。

 我々が今取り組んでいる事業は、グローバルNo.1ソーシャルゲームプラットフォームとなること。実際、我々自身がゲームを作るだけでなく、第三者にオープン化をしており、数千のゲームのほとんどが社外で作られている。現在、社長や私 が時間を最も割いているビジネスであり、大きなチャレンジである。

 勿論、これはわずかな一歩に過ぎない。我々は、次に、グローバルNo.1エンターテイメントプラットフォームを目指している。人と人とのつながりを持ちたいという基本的なニーズに応えるプラットフォームを作りたい。そして、グ ーグルを超えるグローバルNo.1インパクトを世の中に提供したい。

 私自身は、2011年6月に家庭の事情で社長を退任し、悔しい思いをした。世界でトップを狙うと宣言し、CTOの新任を発表したばかりのタイミングだったが、家族の病気が分かり、そちらに集中しようと思った。中途半端に社長業は出来ない。

 私の中で退任することは、最後の大事な仕事と思っていて、次の年にバトンタッチしようと心に決めていた。DeNAの成長は、トップの寿命やモチベーションと連動するのではなく、企業として隆々と育っていって欲しい。だ から、私物化をしないという姿勢や鉄則を示すために、不可抗力なタイミングではなく、来るときがきたらきっちりと辞めようと、ずっと準備をしてきた。

 今は、家庭の状況が安定したので、仕事に戻り始めている。現社長をどのように支援したら良いか相談しながら、暴れまくっている。

 

経営で一番大事にしていること

 1つ目は、チームで目標を達成したときの、メンバーそれぞれの高揚感や喜びを分ちあうという体験を一番大事にしている。ビッダーズが立ち上がったときに携わった開発者たちは、それぞれ異なるモチベーションを持って いたが、一つの目標に向かって一生懸命に頑張っていた。インターネットから自分達のサービスが見ることが出来たときのあの瞬間の喜びは、皆に等しく尊いもので、高い次元の貴重な体験だった。

 これを実現させるためには、オーナーシップを一人一人に持たせる必要がある。誰かに言われてやったことでは、あの喜びを味わうことは出来ないと思っている。

 2つ目は、人材への信頼。赤字を巻き散らかしていた当初から、人材の質は妥協しなかったこと。

 3つ目は、work ethicsに妥協のない組織を作ること。高い次元で仕事を頑張ること、チームに全力でコミットすることについては、一点の曇りのない組織を作ろうと思った。

 

これからのこと

 先ほどの通り、DeNAがグローバルNo.1の成功事例をつくること。それが、自分を育んでくれた日本への貢献ではないかと考えている。

 もう一つは、DeNAを通じて、グローバルビジネスリーダーとして会社や国境にとらわれず、どんな状況に置かれても、目標を達成することが出来る人材を育成したいと考えている。そのために、ビジネスというのは非常に良 いトレーニンググラウンドだと思っている。目標や一定のルールがあって、人集めをして戦略を練り、お金を管理して、目標達成して…ということを千本ノックのように繰り返していく。これを、会社の中でだけ通用するやり方ではなくて、目標に 向けて最も効率的で力強いプロセスが何なのか見いだせる人材を輩出することが私のミッションだと思っている。ファウンダーという立場で、社長や経営陣と共に追求して行きたい。

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