本書の内容については、すでにこのBiblioPlazaに田口さんの紹介がある。東京大学『教養学部報』には矢田勉さんに懇切な書評を戴いた。ここでは少し別のことを書こう。
2023年に角川ソフィア文庫から西田太一郎『漢文の語法』を田口一郎さんと校訂復刊した。世の中には漢文を読みたい人はけっこういるようで、幸い版を重ねている。気をよくした二人はその実践編を作ろうと相談した。さて、何を読もう? 『史記』ですかね、『史記』でしょう。とはいえ全部は読めない。「項羽本紀」を抜粋でという案も検討されたが、いまひとつ。それならと田口さんが「游俠列伝」を提案、たしかに読み応えがあるし、全部読んでも大した量ではない。序として書かれた論説文は名文として知られる。「游俠」という存在を知っておくことも中国理解の助けになる。『史記』游俠列伝で漢文を学ぶ本を作ろう、となった。
一般に人文学で共著と言うと、分担執筆のことが多い。他の執筆者が何を書いているのか本が出るまでわからないこともざらである。けれども本書は、同じテクストを間にして、互いの訳と解説に遠慮なく手を入れ合うという真の協働作業によって作られている。そのためには、いちいちメールでファイルのやり取りをしていたのでは破綻する。そこでGithubに漢文用にマークアップした原稿を上げて、issueを立てて議論しながらその場で書き換えていくということにした。pullしてpushして時にはmergeしてと最初は面倒だけど慣れれば安心が勝る。協働作業の楽しさもある。
その雰囲気を伝えようと、本文のあいだに「コラム」と「漢文談義」を挟み、訓みの可能性、辞書のひきかたなど、かつて院生時代に交わしたような話、いまも研究室でしているような話を文章にしてみた。『漢書』游俠伝との比較などもできるから、活用すれば専門課程に上がる前のトレーニングにもよさそうである、
細かいことを言えば、私たちは漢代史の研究者でも上古中国語の研究者でもない。ただ、ふつうに『史記』は読む。その「ふつう」の読みかたは、ほとんど無意識の内だったりもする。本書では、そこを言語化して、どうしてこう読んでそう読まないのか、くどいぐらいに説明した。こういうタイプの読本は漢文ではなかなかない。私たちも、ふだんは、そう読むからそう読むのだ、とにかくたくさん読みなさい式の説明になりがちだ。そこをこらえることができたのは、これもおそらく協働作業であったからだろう。説明不足だと遠慮なく指摘が入るのである。
制作に当たっては、院生のころに買い集めた中国の語法書をもういちどめくりなおしながら、学問の入口の楽しさを味わった。それが読者にも伝わればと願う。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 齋藤 希史 / 2026)
本の目次
第1日 序 (一)
第2日 序 (二)
コラム1 表語文字
第3日 序 (三)
第4日 序 (四)
コラム2 粟と薇
第5日 序 (五)
漢文談義 (1)
第6日 序 (六)
第7日 朱家
コラム3 四声
第8日 田仲
第9日 劇孟・王孟
コラム4 『史記』の注釈
第10日 郭解 (一)
漢文談義 (2)
第11日 郭解 (二)
第12日 郭解 (三)
第13日 郭解 (四)
コラム5 「何の」か「何ぞ」か
第14日 郭解 (五)
第15日 游侠のその後・論賛
漢文談義 (3)
おわりに (田口一郎)
附録 (句読点つき原文・白文)
関連情報
矢田勉 評 (『教養学部報』656号 2024年7月1日)
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/booklet-gazette/bulletin/656/open/656-3-01.html
書籍紹介:
15日間で『史記』を読む! 漢文読解の指南書『漢文の読法』発売 (株式会社KADOKAWA 2024年3月29日)
https://group.kadokawa.co.jp/information/promotional_topics/article-9807.html

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